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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
28/47

第25詩・ニーベルング店

 ニーベルング店ロビー。

 仕立て屋のファーフナー、鍛冶屋のミーメ、万屋のアルベリヒとの挨拶を終えついに本題にはいろうとしていた。


「ふふ。それでどういったご用件でこちらに来たのかしら?」


 ファーフナーの問いにザッハークが答える。


「まず時人の服を用意してもらいたい。人間は気温に合わせて服を変えないといけないからな、監獄で貰った分では足りないだろう。それと、既に知っているだろうが4か月後にパーティーがある。その衣装もお願いしていいか?」


「アラ。アラアラアラ!可愛い命のお洋服を仕立てられるなんて嬉しいわ。喜んで受注しましょう。じゃあまず採寸して構わないかしら?」


「ああ。時人、採寸が終わったらすぐに戻ってこい。剣の話はそれからだ」


「わかりました。えっと……」


「ワタシについていらっしゃい」


 ファーフナーはくねくねと腰を振りながら奥へ続く廊下を歩いていく、時人は早歩きでその背中についていった。


 辿り着いた扉が自動で開くと、服を仕立てる作業場と思わしき部屋が見える。その部屋もギラギラと黄金が輝いており、眩しくて目を細めた。


「ふふ。さあ小さくて可愛い命、腰のベルトと剣をそこの机において、ここにきて」


 鏡の前でメジャーを持ったファーフナーがくねくねと時人を誘う。時人はぎこちない動きでファーフナーの言うとおりに動いた。


「……既に薄着で寒そうね。このまま図っちゃいましょうか。さあ、肩の力を抜いて……自然に、自然にね。ふふふ……」


「はい……」

(うう、なんかぞわぞわする……)


 メジャーによる時人の採寸が始まった。

 胸囲を撫でられ、長い爪で身体をつつかれたりし、時人は頬を染める。


(寸法測るのってこんな恥ずかしいっけ……)


「ふふ。ねぇ、可愛い命はどんな色が好き?」


「え? そう、ですね……黒……あと、青とか……」

(我ながら普通すぎる色しか出てこないな)


「好きな食べ物は?」


「食べ物……カレーとか……ハンバーグ、グラタンにもんじゃ、たこ焼き、スパゲッティ…………カロリー高めのご飯が好きなんだと思います」


「ふふふ、可愛らしいわね~」


「う……」

(さすがに子どもっぽすぎるかな)


「次は股上を測りたいわ、この椅子に座ってもらえる?」


「ああ、はい…………はい……」


 持ってこられた椅子もまた黄金。かなり重そうだがファーフナーは軽々と持ち上げる。座り心地が悪そうだと思いながら時人は腰を下ろす。


(あれっ)


 思いの外かたくなく、パイプ椅子程度の柔らかさがあった。どうやら色が金色なだけで本物の黄金ではないようだ。


(……まあ、そりゃそうか……)


 時人は少し安堵するように表情を緩めた。



 一方その頃、レヴィとザッハークが待つロビーにて。二人は黄金色の椅子に座りながら時人を待っていた。


「……ねぇ竜王。パーティーにはアタシも参加していいの?」


「いいと思うぞ。まだ詳しい事は決まってないようだが、貴族以上の集まりにしろ、ドラゴンには関係ないからな」


「そっか……じゃあアタシもファーフナーお姉様にドレスを仕立ててもらおうかしら……竜王もドレスやスーツを?」


「……いや、私は普段着だ」


「どうして? せっかくのパーティーなのに……アキレス皇帝も竜王の衣装姿を楽しみにしてると思うわ?」


「…………あの人は──」


 ザッハークが何か言いかけたその時、アルベリヒが「んっんっんっ」と気味の悪い声でレヴィとザッハークに近付いてきた。

 アルベリヒは髭を撫でながら介入する。


「勿体ない! 勿体ないですぞ吾が君! その無駄に長い手足とチャームポイントの赤いインナーカラーを魅せつけるチャンスだというのに! アキレス皇帝が君臨するトラキア王国の民族衣装……はアピールしすぎか。あっ、チャイナドレス! 噂ではアキレス皇帝は中華によく顔を出すと! チャイナドレスはいかがです? チャイナドレス!」


 興奮気味に話すアルベリヒにザッハークは呆れた表情を見せる。一方レヴィは少し興味がある様子だ。


「……チャイナドレスかあ、アタシも着てみたいかも……」


「おやレヴィ。貴女はやめた方がよろしいかと。手足が短くて映えませんからね」


「なっ……アルベリヒさん! レディに対して失礼じゃなくて!?」


「レディ? ンン~レディ!? どこにおられるのかなレディわぁアアッ痛ッッ!!!」


 アルベリヒの爪先にレディの踵が襲いかかった。思い切り踏んづけられたのだ。


「んもうっ、女の子はみんなレディなんだから!」


「おほほほ、ほぉ、こんな攻撃的な女の子、トキトくんも苦労しそ……おおっと、なんでもありませんよ」


 2頭がそんなやり取りをしていると、廊下の奥から時人の姿が見えた。時人はレヴィと目が合うと軽く右手をあげる。アルベリヒはニヤリ、と笑みを浮かべると静かにその場から離れていった。


「トキトっ、もう終わったの?」


「うん。服は用意でき次第、家の方に届くって」


「そうなの。それじゃあ次は……えっと、竜王?」


「ああ、剣についてだな。それはアンリが管理していた選定の剣だろう?」


 そうなんです、と時人は腰の剣を持ち上げる。


「魔法道具に選んでもらうときにこの剣だけ動いて……ただ鞘から抜いても見ての通り錆だらけなんですよ。これどうしたら?」


「…………錆はミーメになんとかしてもらえばいい。だが聖剣使いでさえ認められなかった代物だ。オマエを選んだからには意味があるだろう、魔力の込めかたをレヴィから教わっておけ。剣術は知らん」


「わ、わかりました。レヴィ、良いかな?」


「ええ勿論。魔力操作のプロに任せないっ! 剣術は全然わかんないけどね!」


「──そのツルギ……」


 時人の背後から聞き覚えのない声がした。この場にいてまだ声を聞いていない人物はただヒトリ、鍛冶屋のミーメだ。


「ひどいサビだ。どうしてこうなるまでホウチしたんだ」


「ええっと……」


「アンリに言え……使う場面がくるとは思っていなかったのだろう。その剣、使えるようにできるか?」


「オマエ、そのツルギかせ」


「あ、ああ」


 ミーメはやや強引に時人から剣を奪い、ジッと見定めた。


「……できる。でも、ジカンかかる。カエすのアシタでいいか」


「それは構わない。時人、ミーメに鞘も渡せ」


「はい。えっと、ミーメさん、よろしくお願いします」


「…………ん」


 ミーメは時人から鞘を受け取ると店に戻り、カウンターに"close"書かれた紙を置くと、奥の部屋へと消えていった。


「剣の錆についてはこれでなんとかなるだろう」


「…………あの、ザッハークさん」


「なんだ」


「……オレが、今日からこの街で暮らすってことは……その、親権はザッハークさんになるんですか?」


「…………」


 暫くの沈黙。

 時人は思い出していた。一週間前、監獄への道中でザッハークが話していたこと。

「私はオマエの親になる気はない」

 確かにそう話していた。けれど今はこうしてアンリの保護下から連れ出し、同じ家に住むこととなった。


(知りたいのは経緯だ。どうして急に、そんなこと……)


 ようやく、ザッハークが口を開く。


「……私の意思に関係なく、元から親権は私にある。オマエをここへ連れてきたのはムーシュに言われ、考えを改めたからだ。レヴィもしつこかったしな」


「……」


 レヴィは笑みを浮かべながら、少し申し訳なさそうにザッハークを見た。ザッハークの表情はいつもと変わらず、レヴィは少し安堵した様子をみせる。

 一方、時人は晴れない表情のままだ。


「そう、だったんですか……すみません、変なこと聞いちゃって」


「いいや、当然の疑問だろう。私はオマエを突き放したのだから」


「…………でも……」


 これからは親子として共に暮らせるんですよね。とは言えなかった。

 果たしてそれが良いことなのか、自分は子どもとして見てもらえているのか、自分はザッハークを親として見ることができるのか、そもそも親と認識していいのかわからない。


(オレの頭はいつも疑問だらけだ)


 出来ることなら仲良くしていきたい。けれど、


(そう思えるのはザッハークさんが親じゃないからかも)


 言葉が押し潰される。何事もなかったかのように話して、明るく振る舞いたいのに、思いが巡れば巡るほど口が閉ざされてしまう。

 先程まで普通に話せた事が嘘だったみたいに、親という言葉を使った途端にうまく喋ることができなくなる。


 自滅だ。


(…………なにやってんだろオレ…………)


「ね、ねぇ!」


 レヴィが時人の前に現れ、目をまっすぐと見つめた。


「あんまり心配しないで? これからはこの街にいるみんなが家族だと思っていいのよ。竜王だけじゃない、ニーズお兄様やファーフナーお姉様も保護者だと思って存分に頼ってよ」


 もちろんアタシにも、と言葉を加えながらレヴィは時人の手を握る。


「レヴィ……」


 時人はレヴィの手を握りかえし、優しく微笑んだ。


「ありがとう」


「…………!」


 レヴィは頬を赤く染め、パッと時人の手をはなした。


「?」


「ご、ごめんなさい! えっと、この後! この後どうするのかしら、竜王!」


「……遊ぶなり、大人達の手伝いなり好きにするといい。他に話がないなら私は仕事に戻る」


「わ、わかったわ。トキト。まだ竜王に話してないことってある?」


「えっと……そう、だな…………話した方が良いのかわからないことなんですけど、ひとつ……」


「なんだ」


 時人は監獄で魔法の属性を調べる時に出会ったフルカスの話を始めた。


「ソロモン王と間違えられたみたいで、その時アンリさんがソロモン王について色々話してくれたんですが……フルカスは元々悪魔だったんですか?」


「――――。」


 ザッハークは眉間にシワをよせ、少し間をあけてから口を開いた。


「……確かにフルカスは悪魔だ。精霊とは、主に肉体から解放された魂が生き物や人工物に宿った超自然的な存在のことをいう。つまり水晶の中にいたフルカスは悪魔としては既に死んでいる」


「死んでいる……」


「だがそんなことはどうでもいい。オマエがソロモン王に間違えられたことの方が問題だ」


「え?」


 ザッハークは時人の顔をジッと見つめる。


「……あの神がわざわざソロモン王の器を作るとは思えないが……奴なら知っているだろうが…………ふむ…………」


「……竜王? あの、アタシ、なんの話をしてるのかちょっとわからないんだけど……」


「いや、あまり気にするな。時人の器の正体に関しては今後どうにかする。それで? 他にはあるか?」


「ああいえっ……多分無いです」


「……伝え忘れたことがあればその時に話すと良い。私はもう行く……好きにしろといったが森の方には行くなよ。レヴィはともかくオマエは魔獣と闘えないからな」


「はいっ、わかりました」

(魔獣……今は猫にしか会ってないけど、きっとすごく危険なんだろうな……授業でも死人がたくさん出たって……)


 ザッハークは時人達に背を向け、ニーベルング店の扉へと歩を進める。その背中にレヴィは元気よく、行ってらっしゃい、と声をかけ、遅れて時人も続けて言う。


「い、いってらっしゃいませ……!」


 営業的な言い方でザッハークを見送っては、時人は照れくさそうに髪をいじった。


(ぎこちない感じになっちゃった……)


「……ふふ。トキトって真面目なのね」


「えっ!?」


「気にしないで。ねぇトキト、もしよかったらこれから街を散歩しない? ここはただの住宅街だけど、いろんなところを紹介するわよ」


「! もちろん良いよ。この街のこと色々知りたいもん。ありがとうレヴィ、色々と気をつかってくれて」


「いいの、アタシがしたいことをしてるだけよ。それじゃあさっそく出掛けましょう!」


 ふたりは元気よくニーベルング店を後にした。

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