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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
23/47

第20詩・新世界連合


翌日。

AM9:00。


 宮殿の中、アンリ・ユーストゥスはデイヴィッド・J・ルーズベルト国王と共に薄い大きなスクリーン画面の前である者達の通信を待っていた。

 少し経つと画面に数名の男女の顔がそこに映し出される。1つの枠のみを除いて全員の顔を確認するとアンリが決まりのように挨拶をした。


「新世界連合各国代表の皆様、本日はご多忙の中、集まっていただきありがとうございます。進行は僕、アンリ・ユーストゥスがやらせていただきます」


 様になっていない敬語のまま、アンリは言葉を続けた。


「本日は各国の近況報告を伺わせてもらいますね。前回と同様、防壁魔法が常設された避難所から地下都市化計画の進行具合の話です。ではまずブリタンニア王国から順に報告をお願いします」


「承知致しました。私、ゼノ・ウォレスから国の近況報告をさせていただきます」


 新世界連合6ヵ国のうちのひとつ、ブリタンニア王国の代表はその国王、ゼノ・ウォレス。

 聖剣エクスカリバーの使い手であり、二人の子どもを持つ22歳。画面には彼の妻、モルガンと友人のマーリンの姿も見えていた。二人は静かにゼノを背後から見守る。


 ゼノはそのまま自身の近況報告へと入った。


「防壁魔法に関しては我が国の魔術師達によって聖剣エクスカリバーに勝るとも劣らぬ強度となり、防壁に関してはどの国にも劣らぬ事でしょう。ただ地下の都市化計画の方は厳しい状態です。単純に作業が進んでおりません」


 ゼノの報告にアンリが疑問を口にする。


「進んでいない?」


「ええ。あの凶悪な犯罪者、セバスチャンに続き現れた連続殺人鬼の犯行が一ヶ月程前から絶えない話は既に存じているかと思いますが、恥ずかしながら正体の尻尾すら捕まえられず……被害者に地下の作業員達も含まれていることから、厳重な態勢を強いられており作業どころではないのが現状です」


 ゼノの言葉に続いて後ろで見守っていたマーリンが口を出した。


「セバスチャンには複数名の部下がいると噂なんだが、俺がセバスチャンに殺人鬼について話をしに行っても口も聞いてもらえなくてな……もし時間さえあればアンリ殿、今度ブリタンニアへセバスチャンに会いに来ないか?」


「勿論、構いませんよ。彼とは面識もありますし、僕に出来ることならなんでもしましょう」


「おお、ありがとうな!」


「……私からも感謝の言葉を。貴殿がいれば事件も進行することでしょう。ブリタンニアから報告は以上です」


「では……次はヒスパニア王国代表からご報告をお願いします」


「そうね、アタクシの出番。皆様、視線をこちらに。アタクシの言葉をよく聞くようにお願いいたしますわ」


 と赤いドレス姿が印象的なヒスパニア王国の王女アウレア・ディーバは、姿勢を正しながらそう主張した。

 42歳でありながら10代にも劣らぬ美貌の持ち主であり、亡き夫の代わりに国王を勤めた四人の子どもを持つ強き女性である。


「アタクシのヒスパニアは、地下都市の作業そのものは順調なものの、不可侵領域による事故や魔獣の出現が多発しており国民が安眠できておりませんの。アレ、どうにかならないのかしら?」


 不可侵領域。

 20年前の戦争によって開かれた次元の穴から出てきた解析不可能の闇。闇は地球を侵食し、迫る壁のように、じわじわと拡がっていく箇所も発見されている。闇に呑まれれば地球上の生命体は過剰な魔力に耐えきれず死亡するとザッハークは説明しており、その闇に侵された場所を彼らは不可侵領域とした。


 アウレアの話を聞いた、二つの団子頭の少女、中華大帝国・皇帝、劉羽が眠そうに欠伸をする。その態度にアウレアは表情を曇らせる。


「……リュウウさん。アナタの国も、周りは不可侵領域に侵されていなくって? そちらはどう対策を取っているのかしら」


「ふわあ……な~んもしてないでヤンス。アブネーと思ったらみ~んな離れるヤンショ。魔獣もふっつーに殺すか捕らえるかするでヤンスね。中華にある問題は国民が毎日祭騒ぎでウルセーくらいでヤンスぅ」


 10年前、僅か6歳で皇帝となった劉羽がおさめる国は繁華街に溢れ、絢爛豪華な毎日を送っていた。劉羽は生まれが20年後であることから魔法と相性が良く、魔獣退治で活躍している事から国民から支持され皆に大いに愛でられた。

 その結果か、劉羽はどこにいても態度が大きくなりがちだった。


 劉羽が話すと、室内でありながら防寒具を着用した銀髪の大男、タルタリア帝国、ヨシフ・エクスプグナティオ皇帝が明るく声を上げた。


「へぇ、いいなあ! 隣国なのにぼくのところとは大違いだねぇ。こっちはとにかく物質不足でさ、厳しくない点はいっこもないね!」


「タルタニアはやはり、吹雪すら止まない状態のままですか?」


 アンリが心配そうにそう言った。

 タルタニア帝国は20年前から気温が常に0℃を下回り、永久凍土と化している。加えて吹雪は止まず、皇帝の城と大規模な軍事施設を融合させ、そこに国民を住まわせることでなんとか国を成り立たせており、中華と隣同士の国でありながら在り方が真逆であった。

 ちなみに彼、ヨシフ皇帝は46歳。息子が一人、妻は8年前に亡くなっている。


「止まないねぇ。タルタニアの環境に適応できるドラゴンくんも()()あんまりいないから魔獣も自分達で何とかしなきゃだし。皆から物資を送って貰うことは今後もかなり増えそうだよ」


「もう諦めて他国に移動するでヤンス。きっとそれが一番の解決策でヤンスよ」


「それは出来ないかなあ。タルタニアを亡き国にするくらいならここで滅んだ方が幾らか増しさ。きっとぼくの国民も皆そう思っているよ」


「じゃ、さっさと死ぬがよろしいでヤンスね」


「はははっ。一番の解決策は中華を半分ほどぼくにくれることなんだけどね!」


「ウエー、マジ無理でヤンスー」


 二人の間に、あの、とアウレアが割って入る。


「……アタクシの番だったのですが、勝手に二人で盛り上がらないでもらえます?」


「もうここまで来たら順番なんて関係無いと思うなあ。進行役もアンリくんだしさ。インドはどう? マハトマちゃん」


「あっ、え! わ、私、ですか!?」


 突然ヨシフ皇帝に話を振られたインド共和国大統領、マハトマ・ネールはアウレア王女を横目に顔を真っ赤にしながら申し訳なさそうに答えた。


「ちっ、地下都市の方は……順調に…………進んでおり、えっと、その……くっ、国としても! も、問題は、ございません……ないよね? の、ので、大丈夫、です」


 彼女は20歳という若さで大統領となったが、あがり症の為こういった場では上手く喋ることが出来ない。それでも支持されているのは彼女の性格故か、大統領になって3年目だ。

 マハトマの発言後、暫くの沈黙が続き、アンリが思い出したかのように口を開いた。


「ああえっと……トラキア大帝国、そちらはどうでしょう」


 トラキア大帝国、アキレス・A・アエテルヌス。20歳で皇帝となり、現在は34歳。竜王を15年追いかけ回している例の男だ。

 アキレスはいつの間にか画面に突きだしていた足をおろし、画面の外で足を組み直した。


「以前報告したように、我が国では3年前に地下都市そのものは既に完成している。防壁も完璧だ。住みやすい用に改善していっているがもう一ヶ月も必要ないな。ただ……大きな問題が一つ」


 アキレスがそう言うとデイヴィッドとアンリ以外は、また始まった、と眉にシワを寄せた。


「その、大きな問題とは?」


「我が手元に竜王がいないことだ。この15年間、その問題だけが解決していない。トラキアの王が15年も愛する者と離ればなれとは、大問題、大事件だろう。何か秘策はないか?」


 その言葉に劉羽はオエー、と言葉にしながら舌を出した。他の王達も、やはりそれか、と呆れた様子を見せる。


「気持ち悪いでヤンス。ザッハーク絶対オマエのこと大嫌いでヤンス」


「何を言うか。そんなことは全くない、会う度に花をプレゼントしているが彼女はどれも快く受け取ってくれている」


「想いは受け取ってないでヤンス。哀れだと思われてるでヤンス」


 なにぃ、とアキレスは歯を軋ませる。

 デイヴィッドは自身の髭に触れながら、トラキアが問題無いのであれば、とアメリカ側へ話を切り出した。


「アメリカ王国は国民が多く、また土地も広い。物資も不足している。しかも、ザッハークがいるとはいえ、森の先に魔界と繋がっている次元のヒビがあるせいで他国と比べて魔獣の数があまりにも多い……これにより地下都市の完成はあと5年はかかる見込みだ」


 デイヴィッドの話にアキレスは深く溜め息をついた。


「かかりすぎだろう。この計画は13年前に開始され、しかもそちらはドラゴンが集中していてアンリもいるというのに。アマクサ・トキトが目覚め、天界からベリアルが降臨した今でも、まさか有象無象の相手をしていて時間が無いっていうのか?」


「有象無象とは何の事か、トラキアの」


「その言葉通りだ。アンリは犯罪者の子どもの世話や老人の介護、寂れた村での慈善活動、その他諸々やっているそうだが……それを英雄がやるってのは馬鹿らしいと思わないか? そんなことをしている暇があるならより多くの命を救える都市の完成を急ぐべきだろう。他の事は他の者に任せればいい」


 アキレスの言葉に各国の代表の半数は表情を曇らせた。しかしアンリは表情ひとつ変えずに返答する。


「僕の慈善活動は地下の都市化作業速度に影響しておりませんよ。なんせ僕はその作業に何の役にも立ちませんので」


「……なに?」


「必要な術式は精霊に任せていますし、力仕事や設計はドラゴンとそちらの専門に任せています。魔獣の討伐や捕獲も僕は専門外ですよ。


……ああでも、トラキア大帝国から物資を補給してもらえるなら完成も間近だと思いますが……」


「……………………」


 アンリの発言にアキレスが黙り込む。ヨシフと劉羽はそれにクスクスと笑いをこぼすとアキレスは静かに口を開いた。


「……こちらは次の段階に入っている。地下が完成したとして、そちらに物資を送る余裕は無い」


 ゼノが会話に入る。


「次の段階とは何でしょうか。地下都市の完成後の方針はまだ決まっていない筈では?」


「まだ話すつもりはない。竜王を寄越してもらえるのであれば少しくらいは……」


「それはもういいでヤンス。我々は新世界連合国、変な隠し事は無しでヤンショ! 戦争ふっかけるならタルタニアと日本以外許さないでヤンス!」


「阿呆。こんな状況で侵略戦争なんか始めるものか、タルタニアじゃあるまいし……こちらは熾天使ベリアルの情報から取れる対策をしているだけだ」


「お、お二人とも、ヨシフ皇帝の前ですから……コホン。アキレス殿はその具体案は話してくださらない、と……どう不都合があるのかはわかりませんが、如何致しましょう、デイヴィッド殿?」


「……儂は構わぬ。ザッハークに嫌われるよう動く男ではないしな、何れ知る時まで待つとも」


「……」


 その言葉に皆は納得した表情を見せる。

 アキレスはザッハークに惚れて以来、15年間もその気持ちが揺らぐことなく出会う度にプロポーズし新しい花を用意する男であることから“ザッハークに嫌われるように動かない”という点において絶対的な信頼があった。更にザッハークは戦争や蹂躙を異様に嫌う事をこの場にいる代表達は知っている。そういったことからデイヴィッドの判断に同意した。


「……ではアキレス皇帝の話はまた今度、次に今後の方針について話しましょうか」


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