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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
22/47

第19詩・選定

「ソロモン王? 今、そう言ったのかい?」


 アンリが時人の顔を覗きながら問いを投げた。時人はハッとすると、ああ、えっと、と言葉を濁らせる。

 時人は意識をハッキリと取り戻し、立ち上がった。


「今のは……フルカス、だったのかな……オレ、なんかソロモン王って人と間違えられたみたいで……」


 記憶を辿り、そうなのだろうと考える。フルカスの言動や表情から、恐らく自身を別の誰かと間違えたのだ。きっとそれが原因でフルカスはアンリの予想とは違う行動をとっていた。


「ソロモン王って誰だよ」


 リームスが聞く。


「それはわからないけど……いやでもなんか、聞いたことある気がするな……」

(ん? でもオレが聞いたことのある名前だとしたら、それはそれで妙だよな)


「……ソロモン王。かつてとある国の王であり、何らかの方法で多くの悪魔を従えさせた大魔術師である、実在した伝説の人物さ。フルカスがその名を口にしたのであれば、フルカスの主人がソロモン王であった可能性が考えられるだろうね。これは大きな発見だよ」


「何らかの方法って具体的になんなんですか?」


「……うーん、言っていいのかはわからないけど……世間的には、全くわからない事になっているから……」


でもこのくらい教えてもいいのかな、とアンリは顎に手を添えながら呟いた。これにはさすがのリームスも首を横に振る。


「なんか怖いんで、言わなくて大丈夫です……」


「……そう? ふふ。まあ僕も大した情報は持っていないけどね。それこそ天使や悪魔から聞いた方が具体的にわかる事が多いと思う」


「あれっ……あの、アンリさん。フルカスは精霊って言ってませんでした……?」


「精霊だとも。時代や地域によって扱いが違うこともある。それにベリアルも悪魔から熾天使へと変わっているからね、フルカスも精霊へと変化する何かがあったのかも。そうだな、その辺りは僕が詳しく調べておくよ」


「な、なるほど?」

(……そういうこともある、か……)


 時人は頭を傾けてなんとなく理解する。

 そんな時人をエタはじっと見ていた。


「……お前、身体の方は平気なのかよ?」


「ん! 大丈夫だよ。ありがとう」


「あの、アンリさん」


「ムシサレタ!?」


「時人の属性はなんだったんですか?」


 エタの問いに時人とリームスは思い出したかのように、答えを求める視線をアンリへ集中させた。

しかしアンリは困った顔をする。


「残念だけどわからなかったよ。砂や色の変化も無いし君はフルカスに意識を連れていかれただけだ」


「そ、そんな……」


「再びフルカスに頼るのは心配があるから今回はわからないままだが……属性はわからなくても無属性の魔法なら基本的に誰でも使える筈さ、杖や武具から探してみても良いかもしれないね」


「杖?」


 魔法使いらしいアイテムに時人は瞳を輝かせる。いよいよ自分もファンタジーの仲間入りだと今更ながら調子が上がっていた。

 そんな時人を見てリームスは溜め息をついた。


「じゃあ今日はもう解散でいいですよね。杖持ってないのは時人だけでしょ。正直眠いし疲れたんですけど」


「うーん、他にも教えたいことはあるけど……フルカスのテストは体力も持っていかれるからね。うん、仕方ない。ただし部屋へは真っ直ぐ戻ってね。……エタはどうする?」


「…………俺は…………」


 エタは目線だけで、時人とリームスをそれぞれ見た。


「…………もうちょっとだけ、残ります……」


 リームスと2人になる時間を避けたいのか、別の理由か、エタは俯き気味にそう答えた。


「わかったよ。それじゃあトキトとエタはここで少し待っていておくれ。リームス、一階まで送るよ」


「わかりました」


「……リームス、おやすみ」


「…………はあ、まじで調子狂うよ……」


 リームスは心底呆れた声で言い、アンリの後ろをついていった。

 部屋には時人とエタの二人が取り残された。時人は溜め息をつきながら椅子へと腰をおろす。


「……なんか、色々凄かったな」


「あんな目にあっといて感想そんだけかよ。ほとんど意味わかんなかったぜ。前々から思ってたけどアンリさんって説明下手だよな……」


「う~ん。こういったことに関して上手い説明がわからないから、なんともな……言えないこととか色々あるのかもよ」


「…………」


「……杖だけど、エタはあるんだよな? どんなの持ってるんだ?」


 そう聞かれるとエタは胸の内側ポケットから綻びのある黒いの布を取り出した。


「オレを選んだのは杖じゃなくてこのよくわかんねー布だ。使い方は知らねぇ」


「オレを選んだって……この……ネックウォーマーみたいなのがか?」


「ネックウォーマー?」


「うん、首回り暖めるやつ」


「……これ首に装備すんのか」


「腹巻きの可能性はなくもないけどなっ」


「それならぜってぇ使わねぇ」


 ははは、と時人は笑いをこぼす。


「……」


「ああ悪い、不快にさせたか?」


「いや……………………選ばれたって話だけどな。こういった魔法道具は人を選ぶって話だ。誰でも使えるわけじゃねぇ。ここにある物はほとんどが誰でも使うのを了承する魔法道具ばかりだけどな」


「へ、へぇ? なんか、意志があるんだな……よくわかんないけど……」

(でもここでのことって言葉を丸呑みにして無理にでも理解した方がいいよな……常識を元に考えたら頭がおかしくなっちゃいそうだ)


「本当にそんな意志があるのかは知らねぇよ。ただ時々動いたりするだけだ。ポケットの中によく仕舞われにくる」


「時々動くだけでも凄いけど……マジで未知の領域だな……オレにもそんな物をこれから得ることになるのか……」


「……まあ、杖とか他の魔法道具とかも、所詮効率よく魔法を運用する為のアイテムだぜ。別になくても使えるからな」


「そうなのか? ああ、杖なら一点集中する為、みたいな?そういやなんかで観たかも。アニメだったと思うけど……」


 脳裏に仲村先輩の顔が浮かぶ。


(先輩がオススメしてきた漫画やアニメ、全部見るべきだったかな……)

「そうだ、エタはアニメとか何か──」


 時人がいいかけたところで、


 ガチャり


 扉の音がした。アンリが戻ってきたのだ。


「やあ、戻ったよ。トキトも今日は魔法道具に選ばれたらおやすみとしようか。案内するよ」


「あ、はい。エタ、行こうぜ」


「…………」


 二人はアンリの後ろをついていった。


 アンリに案内されたのは地下三階。

 階段を降りていくと扉があり、そこを開くと廊下ではなく書庫をイメージさせる部屋が見えた。本はあるが、多くは杖や箒といった道具だ。


「わあ……凄いですね。え! この箒って……空を飛べたりします?」


「もちろん」


「簡単に言う~~~」


 時人からしてみれば非現実な世界観だ。ここに来てから何度も何度もそれを思い知らされる。何もかもが新鮮で、心が躍らないはずがなかった。


 時人の背中を、アンリは優しく押す。


「さあ、堂々と前を歩いてごらん。魔法道具が私に相応しいと君を見込んでくれる筈だ。僕らは後ろからついて行くよ。好きなようにここを回るといい」


「は、はい……エタにも聞きましたけど、本当に魔法道具が動いたり……」


「ああ、そうだとも。基本的には無機物としての役割を果たしているがね。みんな主人を見付けたくて必死だから、惚れ込んだ相手には思わず飛び付いてしまうのさ」


「そーですか…………あの、選ばなかったりとかは」


 中々前へ進まない時人にエタが大きく舌打ちをする。


「神や竜と繋がりのあるお前が選ばれねぇわけないだろうが。さっさと進めよ」


「……そうか! いや、そうなのかな。うん……よし、よし、中は一般人だけど多分大丈夫、大丈夫……」


 時人が一歩踏み出しアンリ達から距離を取ると、棚は一斉にガタン、と揺れた。


「!?!? え、な──」


「トキト。そのまま進んで」


「…………はい、わかりました」


 不安な気持ちのまま棚と棚の間を歩く。棚はガタガタと音を立てているが、少し歩いたところで時人はあることに気が付いた。


(これ、棚そのものが動いてるんじゃなくて……置かれた物、だな。魔法道具がなんか…………騒がしい? 驚いているみたいな……オレ、ひょっとして全部に認められてたり? なんて、へへ)


 少しニヤつきながら時人は前へ進んで行く、その後ろでエタは不可解な顔をし、アンリは心配そうな顔を見せていた。


 アンリはこの現象に覚えがある。


(怯えているんだ。魔法道具が恐怖している。こんな反応を見せたのはタルタリア帝国のツァーリ以来、見たのは初めてだな……トキトがツァーリと何か大きな共通点があるとは思えないけど……)


 タルタリア帝国、ヨシフ・エクスプグナティオ皇帝の姿を脳裏に浮かばせる。以前皇帝や国王達に魔法道具を提案した際、ヨシフ皇帝にはどの魔法道具も拒絶を見せていた。

 ザッハークが言うには恐怖されているのだと。壊される恐怖、使い捨てにされる恐怖、あるいは人間性そのものが恐怖されていた。


 そして結局、ヨシフ皇帝は魔法道具に選ばれることはなかった。


 時人にその事を伝えるべきか否か、アンリは頭を悩ませる。


 そして部屋の奥にまで来たその瞬間、大きな音が響くと共に先程まで震えていた魔法道具達は一斉に静まり返った。

 しかし、唯一、どこからか大きな音がガタガタと揺れている。


 時人は耳を澄ました。


「…………壁……いや……」


 音のする方向を見て、壁側に立ててある棚の下を見た。よく見るとカーテンのようにかけてある布が微動しており、開いてみると鎖を巻かれ、厳重に施錠された大きな箱が姿を現した。そして音は確実にそこから聞こえている。


「ア、アンリさん、これは」


「──まさか」


 アンリは意外な顔をしながら急いで時人の横へ腰を下ろした。


「少し後ろへ下がっていてくれ。飛んでくると危ない」


「あ、はい」


 アンリは服の中で首にかけていた鍵を取り出し、施錠の解除を始めた。一体何が出てくるのか、時人とエタは興味津々で作業に見入る。


 鎖も外され、箱の施錠が全て解除されたその時、三名は息をのんだ。


 アンリは棚から、箱を時人の前へと移動させる。やはり動いているのはその箱だ。


(この中に、いったい何が……)


 錆びてはいるものの豪華な装飾がされたそれは、宝箱のように見えた。

 アンリはゆっくり箱を開いていく。


 中にあったのは、錆びた剣だ。


「……………………これ、は……」


「これはただの魔法道具じゃない。僕でもザッハークでも、聖剣の使い手さえも鞘が抜けず、認められる事はなかった唯一無二の剣だ。戦後にブリタンニア王国で発見された遺物なんだけど、ザッハークにここに保管するよう言われて今はここにあるんだよ」


 錆びた剣は時人の視界に入ると動きを止めた。


「……誰も認めなかった剣が、オレを選んだってこと……ですか?」


「……まだわからない、が、剣を鞘から抜いてみるといい。答えはそれでわかるだろう」


「…………」


 鼓動が激しく動く。ゆっくりと、人生で初めて剣の鞘に触れた。剣の長さは腕ほどあるかないかほどだ。


(あんまり重くない……多分これ、細身の剣……だよな……)


 剣の柄をゆっくりと握る。


(引き抜く──)




────ギィ。


 抜けた。錆びた両刃が初めて姿を見せた。

 鞘から剣が抜けきられたとき、アンリは笑顔を見せた。


「凄い……まさかソレに認められる人を目の前で見れる日がくるとはね……」


「あ、あの、その、凄いこと……なんでしょうか。本当に? ……鞘に戻してみて、エタでも抜けるとかは……」


「どうかな。試すのは自由だよ? ……しかし、喜ばしいのは喜ばしいけど、かなり錆びてしまっているね。鞘はなるべく手入れはしたんだけど、今まで抜けなかったのもあって刀身までは……これ、使えるのかな?」


「選ばれたのに使えないパターン!?」


「いやいや、まだわからないからね。ザッハークに相談してみるよ。ああいや、その時はトキトも一緒に行こう。君の親権は本来ザッハークにあるから、色々ハッキリさせないとね」


 さあ鞘にしまって、とアンリは満面の笑みでそう言った。時人は慎重に剣を鞘に戻す。


「その剣は部屋に持っていくといい。腰にさしやすいよう帯はこちらで用意するよ」


「わ、わかりました。ありがとうございます……あの、剣でも魔法って使えるんですか?」


 アンリの代わりに、エタが不機嫌な表情でそれに答えた。


「バリバリ使えるに決まってんだろ。俺の布より使い道があるっつーの。形状からして杖の代わりにもなるだろうしな」


「え、そういうもん?」


「ふふ。例えば魔法で作った弾を安定して打つだけなら木の棒でも良いわけだからね」


「そういうもんなんですか……!?」


「でも木の棒じゃ耐久性がないから一度使ったら壊れてしまうかな。まあその剣ならいくらでも魔力を注ぎ込んで大丈夫だと思う。ないとは思うけど、折らないようにね」


「……はい。気を付けます……」


 ないとは思う、という言葉が時人の不安を煽る。あまりにも錆びているものだから、部屋で抜いて転んで、刀身を折らないようにしないと、と肝に銘じた。


「さ、部屋に戻ろうか」


 アンリは箱を棚に戻し、三人でその部屋から去っていった。


***


 天界の神殿で眠りにつく王は、ピクリ、と反応を示し、瞼を開いた。


「…………」


 深く呼吸をし、ゆっくりと身体を起こす。ただ眠っていたわけではない。神としての力を吸収し、我が物としてエネルギーを変換していた。そして同時に自身の力を神殿に送り、世界に自身が神であると認識させてゆく行為だ。


 王は世界の構造を変えつつある。


 目が覚めたのを察し、ルシフェルが顔を見せる。


「よぉ~、どうした? まだ作業は終わってねぇと思うんだけど?」


「…………息子の、名が、どこかで……」


「あん? どの息子だよ」


「……………………そ…………」


「……おいおい、しっかりし──」


 ルシフェルの声が届いていないのか、王へ近付こうとしたその時、悲痛な声で王は呟いた。


「──ソロモン……お前は、そこにいるのか……?」


「……ああ? お前、まだ捜してたのか? ……いや、そうじゃねぇか。ったく、マジでしっかりしてくれよな」


 ルシフェルは、ゆっくりと、その名を口にした。


「なあ──()()()


──お前が壊れるにゃ、まだはやいんだよ。

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