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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
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第13詩・監獄生活Ⅲ

 時人はキョロキョロと周りを見渡したあと、バスタオルを被っているのをみてすぐにエタに気が付く。時人は隣の風呂椅子に腰を下ろした。


「……」


「シャンプーとか色々ここに用意されてるんだな」


 そう一人言をいいながら時人も混合栓を回す。

 もはやエタは何も言わなかった。




 髪を洗っていると少年が時人に声をかけてきた。


「なあ、ああ、やっぱり、えっと……」


 時人の緑色のタグを見てそう声を漏らしながら隣の風呂椅子に腰を下ろす。

 それに気が付き時人はすぐに髪を洗い流すが、泡が流し切れていない状態で少年は勝手に混合栓を回し、シャワーの流れを止めた。


「アンタ、昨日竜王とここに来た人だよな? 何者なんだと思ってたけど今日テレビで見て分かった。アンタって昨日目覚めたっていう英雄様なんだろ?」


「……!!」


 時人は顔を上げそこで初めて少年の顔を見る。

 少年は金髪碧眼の、十代前半と思われる顔つきをしていた。シャワーを浴びた後なのがよくわかるくらい濡れていたが、髪がかなり跳ねているのをみると癖っ毛の強い子なのがわかった。

 オマケに初対面で正体をわかっている筈の相手に対して、少し見下すような視線は彼の性格が充分に伺える。


「……英雄ではないけど、キミは?」


「オレ? オレの事なんか知ってどうする? それともなんだ、神の子はオレの罪でも聞いてんの?」


「違うよ。オレの名前は天草時人。神の子でも無ければ英雄でもない、ただの一般市民。で、お前の名前は?」


 時人のその言葉にエタと少年は眉をしかめる。


「ふーん。そう、へぇ? 気に入らねぇな。なんか普通に話せてるし、昨日目覚めたなんてやっぱデマなんだろ。15年もの間、世界の王様達から目一杯愛でられて良い生活送ってきたような奴が一般市民だ? 冗談キツイぜ」


「…………お前」


「トキト、そいつの名前はリームスだ。元スラムのガキ大将で性格がハエも寄らねぇ干からびたウンコ野郎でな。言うことにいちいち反応しない方がいいぜ」


 時人の言葉を遮り、シャワーを浴びたままのエタは辛辣な言葉を吐いた。それに目を丸くしたのはリームスだ。


「誰だこのタオル野郎と思ったらアンタかよ。アンタと話すのはこれが初めてじゃね? きっっもちわりぃなあ。どこでオレのこと聞いたんだが」


「娼婦の息子は二年半お勉強しても頭が足りないみてぇだな。よく考えて発言しろ、逆にお前は何で俺を知ったんだ? ここにいる奴等はほとんどが世間に報道されてんだ。テメェの個人情報が漏れてることくらい知っとけ」


「……っ!」


 時人を挟んでリームスはエタを強く睨む。一方エタはシャワーを浴びながらずっと俯いている。

 流石に止めようと時人が両手を上げようとしたそのとき、リームスが勢いよく立ち上がった。


「いい加減にしろ! なに人様に上からモノ言ってんだ? いつまで人間ぶってここに居座ってんだ!? さっさと首を吊るなりして死ねよ化け物!! 世界もアンリさんもなあ、要らねぇんだよアンタのことなんざ!


迷惑なんだよ存在が!! 迷惑! クソ! ゴミ! 社会に何の貢献も出来ねぇ癖に飯食って寝て息してんじゃねぇ!! 今まで殺してきた奴と同じ苦しみを味わって死ね!!」


「いい加減にすんのはお前だよッ!」


 時人もまた声を上げながら勢いよく立ち上がる。

 その背丈はリームスと変わらない程で、視線が真っ直ぐにぶつかった。

 そこで初めて、エタはシャワーを止めて顔を上げる。


「トキト」


「オレは今、結構怒ってる」


「そうじゃなくて……」


 気が付くと、リームスと時人の怒鳴り声に驚いた少年達が皆こちらを見ていた。エタは自分がいることに気付かれてしまい、今すぐにでも浴室から出ていきたい気持ちでいっぱいだ。

 だが時人とリームスは帰してくれそうに無い。時人が立ち上がったことによりリームスは少し冷静になり、意地の悪い笑みを見せる。


「……ああ! アンタ知らないんだろ? なあ? そこの白いのが何モンなのか、何してここにぶちこまれたのかをさ。教えてやるよ。ソイツは──」


「オイ」


 時人の低い声がリームスから余裕の表情を消した。誰がどう見ても、時人が本気で怒っていたからだ。


「自分の妄想を前提に話を進めて、人を馬鹿にするのはやめろ」


 自分の言葉によって、だんだんとリームスが時人の知る人物と重なってゆく。


「さっさと死ね? 存在が迷惑? 社会に貢献出来ないなら息するな?? よくもまあ言えたもんだな。そんな言葉を投げ掛けるのが正しいとでも思ってるのか?


お前はどうなんだリームス。そんな言葉を投げることの出来るお前はどんな理由でここにいる?」


「……!!! 」


 リームスはこめかみの血管が浮くほど顔を真っ赤にし、冷静さはどこかへ飛んでいっていた。


「ソイツは……ソイツはッ! ()だ!! 化け物だろうが!! 人と同じ土台に上がらせていい存在じゃねぇんだよ! 何も知らない癖にいい気になって説教してんじゃねぇぞ!!」


「もう一度言う。妄想を前提にして喋るな、お前。エタがどうしてここにいるのかはエタ本人から聞いているし、そもそもエタは鬼でも化け物でもない。


お前やオレ達と何ら変わらない人間だ」


「────」


 場が静まり返る。


 時人の言葉がその場にいた少年たちの心にどれだけ突き刺さったのか時人は知る由もない。

 ここにいる殆んどの人間が同じことを思った。


(アンリさんも同じ事を言っていた……)


 ──あの白い奴を貶したり、人じゃないものとして扱うとアンリさんはいつも叱っていた。でも怖く怒れる人ではないし、アンリさんは誰よりも優しいから。白い奴を人間として受け入れさせようとしているだけなんだと思った。でも彼が人と違うのは明らかで、それも凶悪犯で、気持ち悪くて、()()()()()で、やはり化け物なんだと思わざるを得なかった。


 仮に本当に人間なんだとしたら。


(そんな言葉を投げることの出来るお前はどんな理由でここにいる? か……)


 湯に浸かっていた一人の少年がゆっくりと立ち上がった。


 リームスは一部の人間と同じ気持ちを声を上げる。


「妄想を前提に話してるのはどっちだ? ソレとテメェがオレ達と同じ人間なわけねぇだろ」


 怒りと動揺から震えるリームスの声。それは時人に、これ以上言い合いを続けてもリームスの考えは一向に変わらないと思わせた。


 そう思ったのは時人だけではなく、


「その辺にしときなよ」


 と軽い声がリームスの背後から聞こえたのとほぼ同時に、トン、と聞きなれない音がした。



予想より長めになってしまいました、監獄生活もう少し続きます。

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