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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
15/47

第12詩・監獄生活Ⅱ

 PM19:20。


 エタはベッドの上で着替えを抱きしめて時間が経つのを待っていた。入浴の時間は19時から20時半までと限られており、エタは毎日、20時10分頃に大浴場に顔を出していた。その時間になるとエタがくることを子ども達は知っているので遅くまで入浴する者は少ない。


(なんで一緒にはいらないといけねぇんだろ……)


 昼食も、入浴も、勉強の時間も、監獄の皆と共にいる時間は苦痛でしかなかった。

 エタは目を細める。

 するとだんだん眠気が襲ってきた。


「────!」


 扉が手の甲で叩かれる音がした。

 突然なことに驚きエタの身体は小さく跳ね上がる。


(…………くそ、誰だよ……)


 誰だと声をかけようとしたその時、


「エタ、いるかあ?」


 と今日一日よく聞いた声がそう言った。


(トキト……! ……!!)


 思わず立ち上がるもすぐさまベッドの上に座りなおす。しかし立ち上がった音で外にいる時人には居ることが気付かれていた。


「いるよな? 入っていいか? 入るぞー」


 答えも聞かずに部屋の扉が開かれる、不満気なエタの顔を見て時人はにんまりと笑みを見せた。


「やっぱり居た。なあエタ」


「風呂くらい一人で行けよ。場所わかんだろ」


「ああ、一緒に行こうぜ。それもなんだけど、エタの部屋がわからなくて沢山の子に声かけたらやっぱり皆オレの顔に反応しないんだよな。部屋にテレビもラジオも無いし、ここって外から情報来ないのか?」


 時人はそう言いながらエタの隣へ腰をおろした。

 流れるように、さも当然のように。よく見れば腕には着替えと思わしき服を抱いており、エタと共に浴場へ行く気満々の様子がわかった。

 エタは大きく舌打ちをする。


「テメェはよぉ、一体なんなんだあ? その顔に何があるっつーんだよクソが。テレビなら教室に一台ずつあるっつーの……ガキ共はニュースとか見ねぇけどな」


 時人はその言葉に、ああ!と納得の声をあげる。


「そうだったんだ! ここに来る前さ、新聞にオレの寝顔があったし、皆から神の落とし子だのなんだの言われてたからここでも騒がれるんじゃないかと思ってたよ」


「…………はっ??」

(こいつ……今なんつった??)


 エタは大きく口を開いて目を丸くした。それに時人は少し困ったような反応を見せる。


「あ、あー……えっと…………15年前に空から落ちてきた赤ん坊って知ってるか?」


「……」


「それが、オレなんだって。起きたのは昨日なんだけど、その……実際に起きたのは──」


「もういい」


 言葉の途中でエタが立ち上がる。

 何か気に障ったのかと時人は狼狽えるが、エタの表情や声色からは怒りは感じ取れなかった。


「話が長くなりそうだ」


 エタは着替えを手にしたまま部屋を出ていくと時人もそれについていった。


 中央の東、大浴場入口付近。


 普段この時間に1階へ足を運ばないエタは、人の多さに顔を青ざめた。エタの姿に気付いた子どもも同様、エタに似た表情で少し距離をとるようにして大浴場へと入っていく。

 そんな中、エタの気も知らずに時人は一人はしゃいだ声を出した。


「わあ~! 温泉って感じの匂いがする!」


 時人は生涯一度も温泉に入ったことが無い。ただ大浴場からでている独特な香りは時人に温泉をイメージさせるほどのものだった。

 事実、大浴場は温泉であり、時人は自身とは違う身体で初めての温泉だ。


 18歳とは思えぬはしゃぎっぷりを見せながら時人はエタの右手首を掴む。


「一緒に行こうぜ」


 時人に笑顔でそう言われ、エタはしぶしぶ大浴場の男と書かれた入口へ入っていった。


 入ってまずあるのは脱衣場。

 子ども達は服を脱いでロッカー内の籠にいれると、鍵も閉めずに浴室へと向かう者が多くいた。


(盗まれるとかっていう心配がないんだろうなあ……)


 仮にも監獄内でありながら(マナーはともかく)治安は良い様子で時人は少し安堵する。


 エタは早足で部屋の隅にあるロッカーへと移動する。そこは3つほどロッカーが空いていた。

 ドアを開いて中の籠に着替えの服を入れるとエタは洗面台付近へ行きバスタオルを手にしては、またロッカーへと戻ってくる。

 その先では既に時人が服を上半分脱いでいた。


(オレ身体ほっそいなあ……)

「あ、エタ。そこのタオルって自由に使っていい感じなのか?」


「…………ああ」

(なんでこいつは当然のように俺の隣使ってんだ……)


 エタは周りをキョロキョロしながら服の上からバスタオルを身体に覆う。てるてる坊主のような状態だ。時人はそんなエタを見て少し頬を緩ませた。


(プールを思い出すなあ……なんかもう懐かしい……うっ、プールの日だからって水着を下に着て学校行ったらパンツ忘れちゃった恥ずかしい記憶が……!!)


「……トキト、タグは外すなよ。ロッカーに鍵かけれなくなるからな」


「お? おお、そっか。ありがとう」


 ロッカーのドアを確認するとそこに鍵穴は無く、あるのは電車の改札機でよく見る、交通ICカードを当てる場所のようなものだった。

 どうやらそこにタグを触れさせることでロッカーの施錠が可能らしい。


(なるほどなあ。食堂みたいに、ここはどこもタグが必須っぽいな……失くさないようにしないと)


 二人は脱ぎ終わるとロッカーの鍵を閉めた。

 エタは身体にバスタオルを巻き、恐る恐る浴室を覗く一方、時人はタオルを腰に巻いて堂々と浴室へと入っていった。


「おおっ……!?」


 その大浴場の浴室は恐らく関東の中学校の運動場くらいの広さで時人を興奮させた。

 見える限りでは、少年達がシャワーを浴びたり、泡をつけあって遊んでいたり、そしてやはり多くは温泉に浸かってはしゃいでいた。


 右側には木の壁があり、そちらからは少女の声が響いてくる。女子の浴室とは隣同士だ。壁は大人でも無理であろうほどの高さで、建物の2階くらいまである。


「すげぇなあ……なあエタ! …………あれっ?」


 後ろにいると思っていたエタの姿はもう無く、本人はキョロキョロと周りを気にしながら隅のシャワー前の風呂椅子に腰を下ろしていた。


(……アイツがいるからつい来ちまったが、俺が俺であることに変わりはねぇし、やっぱこの時間帯に来るんじゃなかった……)


 普段は聞かない少年達の楽しげな声。

 もしエタがこの時間帯に浴室に来ていると知れば、場は静まり皆が浴室から出ていくのではないかとエタは恐れている。


 慣れる日は来ない。

 いつから誰かに突き放されていようが、いつから誰かに忌み嫌われようが、いつから独りが当然になっていても、エタがその状況に慣れる日は来なかった。


 ————いつだって恐ろしい。いつだって傷付く。

 どんな理由があろうと、どんなに自分を貶めようと、泣きたくてしょうがない。


 エタはバスタオルで身体を覆いながらシャワーの混合栓を回す。冷たい水から温かな水へ。

 風呂椅子の上で膝を抱え、全身が濡れていくのを待った。



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