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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
17/47

第14話・監獄生活Ⅳ


「ッ……!?!??」


 リームスは膝から崩れ落ちる。


「!? えっ、な、なん……リームス?」


 あまりに突然のことに驚き、流石に時人もリームスを心配した。だがリームスから反応は無く、代わりにいつの間にかリームスの背後に居た少年が答えた。

 ゆっくりと湯から立ち上がった少年だ。

 その少年は温泉に似合わない長袖のフィットネス水着を着ており、周りの目をよく引いた。


「失神しているよ。今ボクが頸動脈を圧迫させたから、脳へ向かう筈の血液が止められてしまったんだ。


ほらオマエ達、ボーっとしてないでリームスを運んであげなよ。管理人さんにリームスはのぼせたと、ちゃんと伝えるんだよ?」


 その少年はニッコリと笑う。

 その場にいた他の少年数名がリームスの傍へ駆け寄り、一人は管理人を呼びにゆく。

 時人はリームスへ視線をやり、エタはニッコリと笑う少年を睨んだ。


(カウム……リームス以上のクソったれ異常者が出てきやがった!!)


 マットブラウンな髪色に、それを明るくしたようなインナーカラーが特徴的な17歳の少年・カウム。

 背丈はリームスよりも高く、ほとんど青年となんら変わらない。この監獄内においては珍しい年齢だ。


 カウムがリームスにしたのは手刀、当て身であったが、そう簡単なものではなく本来首筋への攻撃は命を奪いかねないかなり危険な技だ。


 彼がそれを易々と行えたのは自身の技術に自信があった──からではなく、仮にリームスがこれで危険な状態に陥ろうが、力不足でただの打撃になりリームスに怒られようがその先はどうでも良かったからである。


「リームス、彼はつくづく運が良いね」


「? あの、貴方は一体……」


 時人に声をかけられ、カウムは一段と表情を明るくし、時人の肩を勢いよく掴んだ。

 エタがそれに小さく舌打ちをする。


「やあ! ボクはカウム! ここでは上から二番目の男さ。よろしくね!」


(上から二番目……何のことだ? 不思議な奴だ、温泉で水着きてるし……)

「は、はあ。オレは天草……」


「トキトくんだろう? 話は聞いてるよ! 実は仲良くしたいと思っていてね! 一緒に湯に浸かってお話でもしようよ!」


「え。えと、でもリームスが……」


「リームスなら大丈夫! そもそも彼がふっかけた喧嘩だろうし誰も気にしないよ! ああ勿論、エタも一緒に、ここにいるみんなでお喋りさ!」


(エタも……)


 カウムの勢いに少し引きかけたが、エタが周りから身を引かれている中、エタも一緒に誘われたことに時人は頬を緩ませた。

 それなら、と口にしようとしたその時、エタがタオルに巻かれた状態で立ち上がる。


「…………俺は嫌だ……上がらせてもらう」


 時人やリームスの前とは違い、弱々しい声と表情でそう言葉にしてはその場から去ろうとする。

 しかしカウムが直ぐ様、エタのタオルを引っ張りながら前に出た。


「まあまあまあまあ。身体も洗い終わっていないだろう? せっかく皆がいる時間帯に来たんだ、交流は大事にしないと……ねぇ?」


 カウムは最後に時人を見た。

 時人はその言葉に、ああ、と頷く。


「エタ、気は乗らないかもだけどせっかくの機会だし……湯に浸かるだけでもしてかないか?」


 エタは振り返り、俯きながら目線だけで時人を見た。それから沈黙が続くがエタは首を横に振る。


(……エタ…………)


「うーん。仕方ない、ねぇトキト……」


「すみませんカウムさん。今日はオレもエタも、もう上がらせてもらいます。リームスのこともやっぱり気になりますし、まだ気持ちに余裕もないですから」


 時人はペコリ、と頭を下げる。時人は本来18歳だが、カウムのことを年下として見てはいない。リームスが倒れた後の対応と少年達の反応から、ここでは年上として扱うべきだと判断していた。

 だからこそ距離のあるその口調と態度が自然と出て、勢いのあったカウムもつい口を閉じる。


「さ、行こうぜ」


 時人はエタにそう声をかけ、カウムの前をあっさりと通りすぎる。エタは驚いて少し遅れながら時人の後ろをついていった。


 カウムの表情が曇り、周りにいた少年達はそーっと浴槽に戻っていく。

 その中で10歳にも満たないような少年三人だけはカウムに恐る恐る近寄った。


「あの、カウムさん……ボクたちも、もうエタに石を投げなくていいですか?」


「…………そうだね、ただ……少し嬉しそうだね。オマエ達」


「……」


 三人は顔を見合わせる。


「だ、だっていつもチュウイされてたのボクらだもん。アンリさんがエタのこと庇うのに、アンリさんをコマらせるのイヤだったのに……」


「トキトがね、ボクらにお風呂の前に声をかけてきたんだよ」


 三人が浴室へ向かおうと廊下で集まっていたところを、時人に声をかけられていた。


「エタの部屋を聞かれたの。トキトはずっとエタと一緒だから聞いてみたんだ。いろいろさ」


「そしたらジケンのことはきいたけど、エタはギャクサツなんかしてないとオモうって。アンリさんだけじゃなく、ザッハークさんがつれていたトキトがそうイうのに、ね?」


 ねー、と三人は頭を頷かせる。

 カウムはその様子を見て不気味に微笑んだ。


「これだから責任を押し付けて生きてる子どもは」


 そう一言いい残し、カウムもまた浴室から去って行った。


PM20:40。


 時人とエタは一階の医務室に居る。

 医務室には管理人のテルグム・プシプシナとアンリ・ユーストゥス。そして気を失っているリームスを含め五人だ。


「リームスと喧嘩していたら、カウムが当て身でリームスを失神させた?」


 エタは本当のことをアンリ達に伝えた。他の少年達はのぼせたとカウムの言うとおり伝えていたが、アンリはエタの話を聞いて納得する。

 時人はアンリの反応に眉をしかめた。


「? 何か思い当たるところがあるんですか?」


「ああ。去年にリームスが「10分程度で上がっとかないと逆に疲れることに気付きました」って言っててね。それからは毎日お風呂に入る時は600秒数えてる子なんだよ。それがのぼせたなんてあんまり考えられないだろう?」


 ああ、と時人は納得する。


(なんか意外だな……あのリームスがそんなかわいいこと……いや、ちょっとアホっぽいな……)


「ん……」


 リームスから声が漏れ、時人はビクッと体を揺らした。アンリはリームスの傍へと駆け寄る。

 アンリが声をかけるより先に、リームスが目を見開いた。


「……アンリさん……」


「ああ、アンリさんだよ。もう大丈夫だからね。具合はどうかな?」


「具合…………は、別に悪くはないですけど。オレはなんでここに……うわっ」


 身体を起こしたところでリームスはようやく時人とエタの存在に気が付き間抜けな声を出した。

 その反応を見てアンリはエタの報告を思い出す。


「そうだリームス。二人と喧嘩したんだって?」


「あっ、いや、その…………すみません……」


「謝るってことは、リームスは悪いことをしたのかい?」


「えっ?」


 アンリは喧嘩の内容を知らない。口喧嘩なのか暴力なのかさえ聞かされていないのだから、三人がどうして喧嘩を始めたのかを知らないのは当然であった。


「…………リームスが時人に突っかかったのを、オレが口を挟んだから言い合いになった」


 エタは俯きながらそう話した。

 時人はすかさずそれをフォローするように拳をあげる。


「初めはリームスが嫌にしつこかったのが悪いと思います。その後のエタとリームスの口論でリームスがかなり酷いことを言ったんでオレもキレてしまいました。


リームスが全面的に悪いとはいえ、風呂場にいた関係ない子達にも迷惑をかけたし、結果リームスが暴力で落とされたので色々と申し訳ないなと思います。すみません。ごめんな、リームス!」


 長々と時人なりの説明した後に、ぐわしっとリームスの肩を掴んで謝罪した。これにリームスは眉をしかめる。


「ビックリするほど心のねぇ謝罪に聞こえるんだけど」


「ああ!」


「ああ!?!?」


 心にないことを隠す気は一切ない。時人は自分もエタも悪くはなく、そもそも突っかかってきた挙げ句、罵声を浴びせてきたリームスが全面的に悪いと思っている。

 そのため、謝罪はしたもののリームスに対して謝りたい気持ちは1mmも無かった。寧ろ謝罪してほしいくらいの心持ちだ。


 一方エタは、


「悪かったな。よく考えて発言しなかったのは俺の方だ」


(エタ…………)


 時人とは全く別の考えだった。


 全面的にリームスが悪いとは考えない。

 ————そもそも自分がその場にいなければ時人は上手く話してゆったりと温泉に入っていた筈だった。リームスの時人への誤解も、時人が一人でいたらなんとか出来た筈だった。自分がいたから、時人は自分を庇ってしまった。

 そう考えた。


 ここでエタが口を開くとは思っていなかったのか、リームスは目を丸くする。


「……アンタ、結構喋るのな」


 その言葉にエタは少し顔をあげリームスと目が合う。しかしすぐにエタは視線を逸らした。

 次に口を開いたのは時人だ。


「で。リームスはエタになんか言うことないのかよ?」


 リームスはムッと不満の表情を見せる。リームスからしても、大浴場での出来事は自分が悪いとはあまり思っていなかった。


「オレは……」


「いい。別に何か言ってほしいわけじゃない」


 言葉の途中でエタはそう言いながら首を横に振る。


「────!」


 アンリが手を二度叩く。

 エタに集中していた視線はそちらを見た。


「そろそろ夕食の時間だ。三人とも、食べ終わって歯を磨いたら僕の部屋へおいで」


 良いかな?、とアンリは三人と目を合わせる。

 三人は気弱く返事をしながらアンリの部屋へ集まり何をするのか想像した。


(流石に説教かな? オレの謝罪の仕方も悪かったし……)


(……そういやオレなんで医務室にいるのか聞いてないや。殴られたみたいな記憶はあるけど……それ含めて色々説明してもらえるのかね)


(……アンリさんの事だ、これから四人で遊ぼう! とか言われるヤツだ……行きたくない……)


 三人が去った後、アンリはテルグムへ声をかける。


「テルグムくんもどう?」


「お誘いは嬉しいですけど、自分は仕事が残っておりますので。それよりカウムの件はよろしいのですか? 自分から注意します?」


「……そうだね。カウムも悪い子じゃないんだけどな……」


「どうですかね、自分にはどうも薬だけが原因じゃない気がしますよ。アンリ様のカウンセリングでも更生出来ないのあれば病棟に隔離するべきかと」


「怖いこと言うなあ。きっと大丈夫だよ」


 アンリの態度にテルグムも思わず、軽いなあ、と思ってしまう。


(でもアンリ様はこれで今まで何人も社会復帰させているし、戦争も終わらせた英雄だからなあ……)


 いつも通り英雄を信じるのみだ、とテルグムは笑みを浮かべた。


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