第一章:そこの賞金首ども!
ウェッタは額と胸元を輝かせたまま、湿地を進んでいった。
最初の半分ほどはさほど苦にならずにすんだ。所々に木の板がかけられていたからだ。
すっかりと腐ってしまっている板を避け、まだ頑丈そうな板を選んでウェッタは進む。その後ろでは、ヨグランが辺りを警戒しながら慎重に歩んでいた。
「静かですね」
意外にも、森が大きく見える場所に至るまで何も起きる事はなかった。早々に矢か魔法の類が森から飛んでくると考えて、ヨグランは身構えていたのだ。
「安心した」
ウェッタは森をゆっくりと眺めると、楽しそうに笑った。
「やつら、ちゃんとこっちを見てる。あっちの木に登ってるやつが一人、左の方の木に隠れて覗いてるやつが一人、そのそばで弓を構えてるやつが一人」
彼女が次々に森を指さしていく。ヨグランは目を凝らす様を見せたが、視線がゆらゆらとし続けて定まらない。彼には分からないのだ。
「んで、その奥に三人。それで全員だな。みんなこっちの様子を窺ってやがるよ。まったく気づかないでのんびりしてるような連中じゃない。安心した!」
「のんびりしてくれた方が助かります」
「骨が無さ過ぎてもオモシロくないだろ? それに……どっちにしたって誤差だよ、誤差」
不敵な笑みを浮かべたあと、ウェッタは最後の板の端までずかずかと進み、両手を腰に当てて胸を張ると、ゆっくりと息を吸い込んで。
そして、陽気に怒鳴りつけた。
「おい、そこの賞金首ども! 賞金稼ぎセルウェッテだ! おまえ達で金を稼ぎに来た! 今から殴り込むかんな、死にたくねーなら降参しろ! 行くぜ!」
賞金首からの返礼は早かった。ウェッタが示していた三つの地点から矢が放たれたのだ。
その瞬間、ウェッタの足元が激しく光った。魔法によって編み込まれた複雑な紋様が湿地を覆う。
その紋様が激しく煌めくと、光球が垂直に撃ち出された。全部で三つ。光球は頭上へ飛び、そして直角に折れ曲がり、前方へ弾丸のごとく一気に突進した。
“光弾”は森からの矢を瞬く間に破砕して塵に変える。
あっさりと“光弾”が矢を撃墜する様を、ウェッタは澄ました顔で眺めていた。彼女にとっては、ただの日常風景に他ならない。
更に三つの矢が森から放たれると、ウェッタの魔法紋様は四つの光球を射出した。うち三つがあっという間に相手の矢を撃墜して、残りの一つが森へ飛翔する。
“光弾”は木の高枝にいた男を正確に撃ち抜いて叩き落した。
「追うぞ! やつら奥に下がった!」
「はい!」
ウェッタの指示のままにヨグランも後を追った。ぬかるみに苦労する中でもヨグランの視線は辺りを窺い続ける。賞金首たちからの攻撃はない。彼らは姿を現さない。
ふと気が付いたように、ヨグランはウェッタを見た。
「彼らが見えているんですか、あなたには?」
「丸見え」
いまもなお、ヨグランの目には何も映らない。
しかしウェッタは賞金首たちの動きを掴んでいる。実際に、さっき彼女が示した三つの場所から矢が飛んできたのだ。
「目では見ていないんですね」
「ふふん♪」
セルウェッテ・ザルナラッフはどこまでも不敵だ。自分は強い。その自信は揺らがない。




