第一章:二重光痕
「……違いますか?」
「違ってねーけどさ。知ってんの、あたしの事?」
「《エズラドルトの戦乙女》なのでしょう?」
「……え? 何?」
ウェッタはぽかんとした顔でヨグランを見た。そのヨグランは一瞬不思議そうな顔をしたあと、自らの知識を披露する。
「《戦乙女》セルウェッテ・ザルナラッフ。その若さとは裏腹に王国一の強大な魔力を持つとされる天才魔術師。闘神エズラドルトに勝るとも劣らぬ魔術を操り、あらゆるものを貫く槍と、あらゆるものを阻む盾を携え」
「ちょちょちょちょちょちょデカいデカい話がデカい盛り過ぎ盛り過ぎ⁉」
ウェッタが慌てて手をぶんぶんと振る。
「話、盛られていますか」
「すげーよ。どんなバケモンなんさ、あたし。いや強いよ? あたしつぇーけどね?」
「お強いのでしょう?」
「人間扱いしてくれね? せめて」
「おや。殊更に化け物扱いしようとした訳ではありませんが」
ヨグランは少しすまなそうにしたあと、盛られていない事実を口に出す。
「二重光痕、お持ちですよね?」
周囲の男たちがざわめいた。
魔法を使ってしまった事を明らかにする魔法光痕。通常一つで余るそれを、二つ施される者が稀にいる。
二重光痕者。突出した魔力量を持つ事の証だ。
「魔法光痕はふつう頭部か、心臓に近い所へ施されます」
ヨグランは自分の額と胸を順に指さしたあと、その指先をウェッタへ向けた。
「あなたがその額と胸元をあらわにしているのは……光痕が輝いていない事を一目で分かるようにするためでは?」
周囲の男たちが視線をウェッタへ集めた。
なるほど、確かにウェッタは前髪を左右に分けていて、その額をはっきりと見せている。開け放しの胸元は皆すでに確認済みだった。いやでも目を惹くからだ。
そして、視線の束がゆっくりと降りていく。
彼女の黒い脚衣は極端に丈が短く、彼女の美しい脚線をまるで隠す気がない。
だが、その足はこれまた材質不明の布地らしきものでぴったりと覆われていた。暗い赤色で染められた謎の生地は肌の色を完全に隠しきっている。
男たちのうちの数人は、更に視線をテーブルへと移した。
彼女がさっきまで食事をとっていたテーブルには、黒い手袋が一そろい置いてあった。むろん彼女の手袋だ。
食事を始めるまで、彼女はその手すら覆い隠していたわけだ。
つまり彼女が露出しているのは顔から胸元にかけて。他はほぼ肌を見せていない。
額と胸元を晒しているのは魔法光痕の状態を見せるためだという、ヨグランの論は十分に説得力があった。
男たちはひどく気まずそうな顔をした。ただただ色気に目を留めるだけだった自分たちが恥ずかしくなったのだろう。
ウェッタはそれをみてくすりと笑ったあと、手を軽く振った。
「……ま、光痕の場所を見せたい気持ちもあるっちゃある。けどファッションも、ある! むしろそっちだ!」
ウェッタはどこか誇らしげにうなずいたあと、ヨグランをしげしげと見た。
「変なとこ気づくんだなあ、あんた。職業柄ってやつかい?」
「“凶器”になりえる魔法の濫用を、ぼくらは防ぐ側ですから。だから、あなたもぼくを呼んだのでしょう?」
「賞金首を仕留めるのに、魔術ナシじゃつらいかんな!」
ウェッタはにっこりと笑うと、ヨグランに手を差し出した。
「真っ当な理由で魔術を使うこと、あんたに証明して欲しい」
彼女は陽気に、しかし真摯に青年へ言葉をかけた。
正当な魔法行使の証明。そう、それこそヨグランが適任とされる役目であり、誰でも出来るわけではない理由だ。




