↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

第二章:安全なリボン

ウェッタは舌を巻いた。

ファウノは踊るように男たちの攻撃をかわしている。


「劇じゃねーよな、これ?」


青い少女は全てが見えているかのように、繰り出される拳を避け続けている。舞台劇でもなかなかこうはいかない。


「……あいつ、背中に目でも付いてんのか?」

「失礼な。目はここに二つあるだけです」

「いいよ答えなくて!」


しかもファウノにはウェッタに返事をする余裕すらある。

感知魔法でも使っているのかとウェッタはいぶかしんだ。


「なんだコイツ。魔法でも使ってやがるのか⁉」


柄の悪い大男が同じ事を考えたようだ。ファウノは呆れた顔でそれを否定する。


「まだ使ってませんよ魔法なんて。痛い目に遭って欲しくないですし」

「痛い目⁉ ああ⁉ 痛い目に遭って欲しくねえだあ⁉ この馬鹿なんて言いやがった、馬鹿が!」

「ちょ! おい! うちの品物!」


目つきの悪い男は、手近な場所にあった伐採用の斧を引っ掴むと両手で構えてファウノを睨んだ。


「武器は駄目です武器は。ね、頭冷やしましょう? ね?」


今さら男が話を聞くはずもない。手加減なしで叩き込まれた斧の一撃をふわりとかわして、ファウノは諦めの表情になった。


「やれやれ、野蛮な人たちです。仕方ないですね」


青いリボンが舞って、斧を持つ男の手に触れた。


「っつ⁉」


途端に男が斧を落として、痺れた手を押さえてしまう。


更に数本の青いリボンが辺りに舞った。ファウノが衣服のあちこちに結びつけていた長いリボンが、更に長さを増して踊り出したのだ。


「私のリボンは安全ですけど、痺れたり、ちくっとしたりしますよ?」


青いリボンの群れを引き連れてファウノが男たちの間をすり抜ける。

リボンが触れたとたん、男たちは次々とうめき声を上げ、足の力が抜けてひっくり返り、頭をふらふらとさせて座り込んだ。


「……法術か?」

「ですね。たぶん《ペラドーマの慈悲》でしょう」


様子を見ていたウェッタにヨグランが語った。

《ペラドーマの慈悲》は多親教会で教える法術の一つだ。比較的手軽に覚えられる、安全性の高い魔法として知られている。


危険な魔法とみなされないためファウノの魔法光痕も輝かない。“安全なリボン”は光痕の対象外だ。


「ペラドーマ……罰の神サマだっけか」

「ええ、刑罰の女神ですね」

「《慈悲》だっけ? 罰なんじゃねーの? ホントに慈悲なんかそれ?」

「両方かもしれません」

「おーおー、両方くれるなんて気前の良いこった。慈悲深いねえ」


男たちは頭や足などを押さえつつ、ゆっくりと立ち上がった。しかし、さっきまでの勢いは無くなっている。


「頭、冷えましたか? ひとまず何か飲んで、たっぷり食べてください。あとは寝るなり、お姉さんに声をかけるなり、お自由にどうぞ」

「……メッキー、もう行こーぜ」

「ケッ!」

「なんですか、機嫌の悪い犬か猫みたいな顔をして」

「ケッ!」


せめてもの悪あがきか、目つきの悪い男は威嚇するような顔を何度もしながら立ち去ろうとした。


「あ、そうだ。斧!」

「ああ⁉」

「斧。さっき売り物勝手に使いましたよね? 弁償するなり、買い取るなりしてください」


目つきの悪い男は、さっき伐採用の斧を勝手に使ってファウノへ斬り掛かっていた。


男は仏頂面のままズカズカと進むと、斧を売っていた店主の前に行き、斧の代金を叩きつけるように支払った。

そして斧を乱雑に掴むと、柄の先を地面に引きずりながら歩きはじめる。それを見た小男が「剥き身のままはまずいよ」と苦笑いしながら斧に布をかぶせた。


「ケッ!」


目つきの悪い男と友人二人は周りを睨みつつ、この場を立ち去る。騒々しい三人組が姿を消すと、辺りはすっかり静かになった。


ファウノは騒ぎが収まったことに満足すると、周りへ頭を下げる。


「すみませんでした。お騒がせしました。もう少しお上手にやれたら、もっと穏便に済ませました。ごめんなさい!」


謝罪をするファウノのもとへ、一人の女性がとことこと近づいていく。例のおっとり美人だ。


「お嬢ちゃん。掌を出してくれる?」

「てのひら……ですか?」


ファウノの手の上に、おっとり美人がお菓子を置いた。


「わっ⁉」

「ありがとう。これはお礼。美味しいから食べてね」

「……ありがとうございます!」


ファウノが深々とお辞儀する。おっとり美人が優しい微笑みを見せた。


「これも持ってけよ! 美味いぞこれ!」

「こいつもやるよ! ぴり辛が癖になるぜ!」

「食え食え! ほい!」

「袋あげようか? 抱えきれないだろ?」


周囲にいた野次馬連中が次々にファウノの掌へお菓子やらなんやらを置いていく。あっという間に掌が満杯になるのを見て袋を差し出す者もあらわれた。


「え⁉ え⁉ え⁉ こんな、もらえません。お騒ぎを大きくしてしまったのに、受け取らせていただけません!」

「遠慮すんな遠慮すんな。楽しませてもらったよ」

「良いモン見せてもらったぜ。すげえ笑った! こんな笑ったの久しぶりだわ!」

「カネ取れるよ今の! 下手な舞台よりおもしれえよ!」


ファウノは瞬く間に人々に取り囲まれた。


「あいつ、今日来たばっかだよな?」

「ええ、そうです」


ウェッタが感心しながら笑う。


「もう溶け込んじまったぞ。すげーなあいつ」

「少し心配でした。良かったです」

「それにさ」


ウェッタは、ファウノと周りの人々が笑顔に包まれているのを眺めて言った。


「ほら。ちょっぴり世界を良くしやがった。大したもんだ。さすが多親教会か?」

「有望ですね、彼女は」

「あとは言葉遣いだけだな。それが直りゃ、もう大人達の手は要らんだろ」

「母親みたいですよ」


ヨグランは微笑んだが、ウェッタの目が座った。


「……良い気分に浸ってんだから水を差すな。気が利かねーな?」


彼女はさっき母親みたいな年齢に見えるのかと落ち込んだばかりだ。「母親みたい」などと表現すればまた思い出すに決まっている。

ヨグランもすぐ自分の過失に気が付いて、首を垂れた。


「申し訳ない。また失敗したようです。反省します」

「どいつもこいつも」


ウェッタはやれやれといった風で手をぶらぶら振ると、ファウノとヨグランを交互に眺める。


「言葉遣いも、気遣いも、先が思いやられる」


ウェッタは、苦笑いになった。

来週(09/21〜)からは毎週月・水・金の投稿になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。