第一章:ある若い男のお話
「おはようござ……っと、失礼。ううん、ええと」
挨拶をしようとして、まごついたあと。
「……今朝も、お綺麗ですね?」
やっとの事で、青年は言葉を絞り出した。
「だめだねえ、ヨグちゃん。そんなたどたどしいようじゃ女はときめかないわよ?」
「おっしゃる通りで、精進が足りません。朝食を頂けますか?」
ヨグと呼ばれた若い男は、苦笑しながら席に着いた。
そして腕組みをして、たった今しでかした失敗を省みて、何から直していけばいいのかを検討しはじめる。
気の利いた言葉の一つも言えるようになれと諭されて早三日。流ちょうな挨拶にはほど遠かった。
「あいよ、お水。ヨグちゃん真面目だし、見てくれも悪くないし。そういうの慣れりゃ相手が見つかると思うんだけどね?」
「慣れるのは大変です。要領は良い方じゃありません」
「ヨグちゃん神童って言われてなかったっけ? 何でもすぐに覚えてたじゃない」
「二十歳過ぎればただの人だなんて、珍しくないじゃないですか」
微笑を返すヨグラン・ハルツの外見は、確かに悪いわけではなかった。
背丈は少しも困らない程度にはある。やせぎすでもなく、腹部が豊かなわけでもない。
その顔つきに目を惹くようなところはないが、邪気のない穏やかな笑みは相手を安心させるのに充分だった。
顔つきだけでなく、彼の人柄は誰もが認めるところだ。
身なりもしっかりとしたものだ。雲のように白い上衣と空のように青い脚衣。その組み合わせは清潔感にあふれている。
更に、首から下げられた金属製の首飾りは、彼の職業が信用に足るものである証となるのだ。
「でもまあ地味か。なんか全体的に」
「主任神官のようにはいきません」
「マイヤーの事は置いといてさ?」
「置いておけないぐらい魅力だったのでしょう?」
「いや、いまはヨグちゃんの話!」
「彼とアナミラさんとの馴れ初めは、ぼくの参考になりませんか?」
強気だった女性の顔に赤みがさした。
主任神官マイヤーの妻アナミラは、他人をいじる事を好むがいじられると途端に弱くなるのだ。
だから、彼女は常に先手を取ろうとする。
「《老木の丘》に美人さんが来ててね。手伝ってくれる人を探してるんだってさ。ま、ちょっと変わってるけど、あれきっと根は良い子よ。ヨグちゃんちょっと手伝ってきなさい。チャンスだから!」
「美人で人柄の良い方なら、いくらでも手伝う人は見つかると思いますよ。どうしてぼくに?」
出された朝食を口に運びながら、ヨグランは少し首をかしげてみせる。彼が仕事を頼まれる事は珍しくない。町の雑用係に近い存在だからだ。
しかし若い女性の手伝いとなると、なかなかに稀だった。町の男たちはみな頼まれなくとも若い女性のもとへ馳せ参じるからだ。女性からすると、わざわざヨグランへ頼みにいく必要がない。
「彼女の仕事、だれでも手伝えるってわけじゃなくてねー。ヨグちゃんが適任なの」
「おや? それは興味深いですね」
「おっ、気になる? 気になってきた?」
アナミラは意地の悪い笑みを一気に彼へ近づけ、耳元で「いひひ」と更に意地の悪い笑い声をあげると、そのまま小さくつぶやいた。
「賞金稼ぎなのよ」
「おや」
ヨグランの瞳が大きく、丸くなった。興味を大きく惹いたと同時に、自分が求められる役目が分かったからだ。
それは確かに誰でも務まるわけではなかったし、ヨグランは適任だった。




