第二章:三つ巴
《繋がりの広場》。
行きかう人々がぶつかる場所。
「なんであなたまで居るんです?」
気持ちがぶつかるところ。
「どうしてウェッタさんまで付いて来て差し上げてるんですか?」
ファウノが努力の成果が現れない言葉遣いでウェッタへ語り掛ける。
「暇だし、女性服売ってる店とかヨグランじゃ分からんだろーし、アナミラ忙しいみたいだし、あたしが居た方がいいと思うぞ?」
ムワスラへ来たばかりのファウノのため、ヨグランとウェッタは店が集まる《繋がりの広場》へ彼女を連れてきた。ここにくれば生活に必要なものは大体揃うはずだ。
とくに服飾品はここでないと手に入らないものも多い。服やアクセサリーは自分で手作りする事が普通だが、ちょっとしたお洒落をするなら職人が仕立てたものが欲しくなる。
「正論で殴るとか暴力的ですね。殴ってから道聞くタイプですか?」
「たまになー。……敬意の方向音痴ってスルーしてやった方がいいんだろか? しない方がいいんだろか?」
ウェッタが困り果てた顔でつぶやく。ファウノから土台の無さを感じるからだ。
基礎から積み上げた方が長い目で見れば早くなるが、その場合本格的に関わる必要が出る。頼まれたとはいえ基本は部外者の自分が、はたしてどこまで関わるべきなのか。彼女は迷っていた。
「何をぶつぶつ言ってるんです」
「おまえの言葉遣いどうやって矯正しようかなって話」
「おまえ呼び、柄悪いですよ」
「いやーすまねえ! 言葉遣いなんて縁のない賞金稼ぎだからさ! なぜか誰かより詳しいけど!」
「下手な皮肉は必要ないので早く帰れよもう」
「途中で面倒くさくなるな! 面倒なら最初から言葉遣いを気にするな! どっちかにしろどっちかに!」
「だから正論で殴ったら血が出るでしょ手当しなさいよ!」
「多分いま何喋ってたか忘れただろ、途中で?」
ウェッタはげんなりした。言葉遣いの難所に次々と躓いて転んでいくファウノが痛々しい。過去の自分を見ているかのような気持ちになる。
「ヨグラン、こいつやばい。頭の使い方から教えないといけないかもしれん。ここまで複合的に下手だと思ってなかった」
「頭の使い方ってなんですか。自分は頭良いんですか」
「拗ねるなメンドくせー」
「馬鹿が! まだ分からねえのか、この馬鹿が!」
「あァ⁉ 分かってねーのはテメェだろうが!」
「は? ……なんだ?」
荒々しい男たちの声が豪快に割り込んで来た。面倒な中へ別の面倒が降り注いできた状況に、ウェッタがうんざりした顔になる。
「なんの騒ぎだよ? やっかましい奴らだなあ」
ウェッタたちが声の方を見ると、二人の男たちが大声でわめいていた。
「なあ馬鹿? 脳みそ足りなさ過ぎてまだ理解できてねえらしいから親切な俺様がもう一度だけ説明してやる。あの美人は、俺様が、先に、見つけたんだ。分かるか? どうだ?」
「ハァ? テメェのバカさ加減がそこまで酷いなんてな! 十年も友達づきあいしてやったオレが恥ずかしいぜ! あのな、目ん玉ついてねーテメェよりもずっとずっと、ずーっと前から、あのオンナはオレが先にツバ付けてたんだ。分かったか!」
「この馬鹿が!」
「あァ? やんのか?」
どうやら、目つきの悪い筋肉質の男と、見るからに柄が悪い大男が口論をしているらしい。
「……なんだアレ」
「あの馬鹿そうな人たち何で揉めてるんです?」
「女の取り合い? かなあ?」
「なにしてんの、君ら。周りに迷惑だろ。ちょっと落ち着いて、何があったか説明してくれよ」
言い争う二人の男たちに、苦笑いを浮かべる小柄な男が割って入った。
それを見てウェッタとファウノがほっとした表情になる。
「仲裁が入ったな。ダチかな?」
「持つべきは友人ですか。あの馬鹿そうな二人にまともな友達がいて良かったです」
「なんでそんな流ちょうなんだよ、悪口言うときだけ」
「ちゃんと喋った時まで一々うるさいですね面倒な」
「お二人まで言い争う事はないのでは」
女子二人が少し険悪になりかけた所をヨグランが優しく諭す。
「はあ? なにそれ? そんな事で揉めてんの、君ら?」
男たちの方はそう上手く行かなかったらしい。
「そんな事っつったか馬鹿が!」
「大事なコトだろうがッ!」
「はー。あのね、リヤちゃんは今日僕が声をかけるの。そう決まってんの。準備万端なんだよ。いまさら君らの出番なんてないの。わかった?」
「この馬鹿がなに抜け駆けしようとしてやがる!」
「テメェはいつもそうだ! こずるいマネして美味い蜜だけ吸おうとしやがって!」
さらに火を噴き始めた男たちをみて、ウェッタとファウノが脱力した。
「……仲裁者だと思ったら第三勢力だった。もう駄目だありゃ。三つ巴だ」
「悪化するんですか……あそこから」
「困ったわね、本当に」
少しおっとりとした雰囲気の、可愛らしい美人がため息を吐いた。




