第二章:戦乙女ふたたび
ムワスラ教会。
穏やかな空気に包まれる場所。
「“予約”しに来たぜー、ヨグラン!」
赤い女性がにぎやかにするところ。
「おや。ウェッタさん、お久しぶりです。“見届け人”の仕事でしょうか?」
助任神官のヨグラン・ハルツが彼女に気づいて微笑んだ。
白と青を基調とした清潔感のある衣服と、和やかで嫌みの無い微笑みが安心感を与える顔。
最近は善性の空気と共に現れる男などと評される事も増えた。
「おう! いま賞金首の隠れ家を探してるトコなんだ。懐が涼しくなってきたんで、そろそろ暖めたいと思ってさ」
ウェッタこと《戦乙女》セルウェッテ・ザルナラッフが小さくなった小袋を取り出して、ぽんぽんと投げ上げる。
赤い髪に赤い瞳、そして赤い異装。火のような明るさと積極性を持つ賞金稼ぎ。
近頃さらに異名が増えて、その名声は高まるばかりだ。
「下調べも一人でやるんですね」
「ああ、一人だ! ま、出来ちゃうからな!」
ウェッタは大いに胸を張ったあと、苦笑いになる。
「……下調べの苦労話、あたしも時々聞くよ。手間かかり過ぎて賞金出たのに足が出ちまったとか、悲喜こもごも」
「“見届け人”が手伝う事もよくありますね。ぼくも何度か手伝った事があります」
「あたしは頼まねーから安心していいぞ。遠くからでも“見える”からさ」
「……やはり、魔法で見ているんですね?」
「ふふん♪」
感知魔法。他者の位置を感じ取る魔法だ。
誰かの居場所を知りたいという望みは普遍的なものだ。そのため古来から世界各地で研究されてきた。おかげで感知魔法の種類と効果は極めて多彩で千差万別である。
「道理で、《行かずの森》のとき相手の位置を見抜けたわけです」
「気配消したって、あたしの感知はなかなか誤魔化せねーぞ。あたしすげーかんな! ま、一番すげーのは作った奴らだけど」
本当に気配を消した者すら見つけられるなら、彼女の感知魔法は範囲・精度ともに破格の性能だ。たかが一賞金稼ぎが持つには似つかわしくない。
まだ若いながらウェッタが勇名をはせているのは、感知の恩恵も大きいのだろう。
「そーいや、気配を消して様子を窺ってた奴いたよなあ? あたしがマハバイニと戦ってたとき。ばっちり掴んでたぜ? 内心『なんだこいつ』ってぼやいてたよ。敵か味方か、どっちでもないのかすらわかんなくてさ」
ウェッタがじろじろとヨグランを見ながら笑う。どう言い訳するのか楽しみだと言わんばかりの、意地の悪い笑みだ。
「申し訳ない、その節は大変ご迷惑をおかけしました。あまりにびっくりしてしまって、自分が何をすべきか理解するのが遅れました」
「ホントか〜? じゃあなんで気配消してたんだ? 結構上手かったぞ、あれ」
ウェッタからのからかい半分な疑問を受けて、ヨグランの微笑が苦笑に変わった。
「時々勝手に消えるんです。『いつから居たんだ』と驚かれた事が何度もあります」
「……そんな人間存在するんか?」
ウェッタは困惑の声を上げた。
気配が勝手に消えるなどと、他の人間が言ったなら確実に冗談と判定するところだ。だがヨグランが言うとどこまで冗談か判別が付きづらい。
「それがマジなら、就く職業間違えてんじゃね?」
「職業ですか。気配が無ければ……気づかれずに相手の居場所を掴めそうですね。賞金稼ぎの補助が向いているかもしれません」
「ん? うん。うん? じゃあ職業間違ってないのか。ないのか?」
また困惑させられて腕組みで首をひねるウェッタを見て、ヨグランは微笑を浮かべた。
「今回は、どんな賞金首が相手ですか?」
「ふぃ? ああ。《魔法使い》とかって異名のやつ。なんか図体でかいらしい」
「《魔法使い》……」
ヨグランは少し考えたあと、なるほどとつぶやいた。
「ベントリー・クルザトールですか。彼ならきっと、ウェッタさんの懐を温めてくれます」
「知ってんのかよ! あんたホント賞金首に詳しいな。まあ職業柄か。“見届け人”だしな」
「いえ、多親教会では有名ですよ。報奨金を出しています」
「カネ出してんの⁉ 教会が⁉ 何やったんだよそいつ?」
「冒涜罪です」
「うわあ……」
ウェッタの顔が触れてはいけないものへ触れてしまった時の後悔に満ちる。
「多親教会ブチ切れさすほど神サマ冒涜するってすげーな。そうそういねーぞ、そんな奴」
たとえば、多親教会は《殺し切らぬ》ヤーレに対しては少なくとも表立って動いていなかった。「綺麗事を言うわりに神々は不公平」だと痛罵するようなヤーレですら、である。
「食べるときと寝るとき以外は神を罵っているそうです」
「どんな人生送ったら、そんなひん曲がった人間になっちまうんだろな? 身の上話を聞いちまったら、うっかり同情しちまいそうだ」
「立場上、彼に情けをかけるのは少々難しいですね。ですが、捕まえて引き渡すまでのあいだ彼の待遇を良くすることを、神は許してくださるでしょう。
「……あんた冒涜者にすらユルくなれるんか。善性が人間の振りをしてるんだか、単にお人好しが過ぎるんだか」
ウェッタは複雑な笑みを見せた。ヨグランを褒めて良いのか悪いのか、判断に困っているのだろう。
「ま、いいや。そいつの隠れ家が無事見つかったら、“見届け人”頼む。あたしが危険な魔法を妙な事に使ったりしてないこと、証明してくれ」
「もちろんです。それまでに、手が空くようにしておきます」
「助かるよ。……でさぁ」
ウェッタはヨグランが抱えている荷物をじっと見た。
「何やってんの?」
「人が増えるんです」
ヨグランは優しく微笑んだ。
第五話(09/18)までは毎日投稿予定です。




