第一章:ラブレター
ムワスラ。安らぎにあふれた町。
《日々の恵みの地》と呼ばれる場所。
「……何をしたらこうなる?」
稀に戸惑いが混ざるところ。
「なんでこんな簡単に賞金を受け取れんだ⁉」
“金の結び目”商会を去ったあと、ウェッタはずっと目を白黒させていた。
ウェッタは若いが高名な賞金稼ぎだ。既に様々な賞金首たちを倒し、多くの賞金を受け取ってきた。賞金の受け取り手続きも、数多くこなしてきた。
「今までのは何だったんだよ……?」
今回ほどスムーズに手続きが進んだ事はない。あまりにも早く終わったせいで「え? 終わり?」と思わず言ってしまい、担当者に笑われたくらいだ。
賞金首制度は、犯罪者を指名手配して報奨金を出す事で、民間人に治安の一部を担ってもらう制度だ。ただ、“制度”と呼べるほど法律やシステムが整っているわけではない。
出資者もばらばら、仲介者もばらばら。指名手配が妥当かどうかが怪しい事例すらある。国王や領主がこなしきれない責務を民間へ投げた形でもあるため、少々問題があっても追認や黙認で済ます例が多い。
賞金受け取りでこじれる事もたびたび起き、賞金稼ぎが暴れるケースも珍しくなかった。
「ヨグラン、魔法でも使ったのか? そんな魔法あるわけねーよな……?」
ウェッタは首をかしげる。今までの手続きは、あれが足りない、実はこれが必要です、どこそこへ行ってください、などと言われて駆けまわるのが常だった。
それが今回は一度もなかった。最小限の確認と署名だけで賞金の入った袋を渡されたのだ。彼女が困惑するのも無理はない。
「あんな“見届け人”初めてだな。なんか……おもしれー奴」
ややしかめた顔でつぶやいたあと、ウェッタはふうと息を吐いた。
「ま、楽だったのは良い事だ。カネがたっぷり入ったのはもっと良い事だ♪」
ウェッタはにこにこ顔になって跳ねるような足取りになった。賞金稼ぎにとって、賞金で懐が潤った時がもっとも幸せな時間なのは間違いない。
「今日は、ぱーっとやるかな。ふっふん♪」
「ウェッタさんじゃありませんか!」
「ほゃ?」
声の主は、見覚えのある陽気な老人だった。
「あれ? 確か“ふた二つ亭”の」
「ダカンと申します。いやあニコニコ顔ですなあ! 儲かりましたかな?」
「儲かった!」
「それはようございました! 景気が良いですなあ!」
“ふた二つ亭”の老店主は大いに笑った。店の外でも店主の賑やかさは変わらないようだ。
「是非またうちにお越しください。うちの常連客も心待ちにしておりますぞ! ウェッタさんはもう来ないのかだの、引っ張ってでも連れて来てくれだの、もううるさくてたまりませんわ!」
「あははっ、ホントかよ?」
「本当ですとも! 中にはすっかりウェッタさんに熱を上げてしまって、ラブレターをしたためる者まで出てくる始末です!」
「ら、らぶれたあ?」
ウェッタは面食らった顔をした。自分が人気者である事を彼女は欠片も疑っていないが、それでも短い時間でそこまで惚れ込まれた経験はない。
「ちょうど、そやつから預かっておりました。良かったら読んでくださいませ」
「……こういうの久しぶりだな」
ウェッタは老店主から飾り気も雰囲気もない紙片を受け取ると、中を見た。
『ジェスタ・オイヤーの仲間が貴女を狙っています。《清濁合わさる町》にてお待ちします。マハバイニ』
「……へえ?」
「どうです? 熱いお誘いでしょう?」
「いいね! 気に入った!」
自然に微笑む老店主に、彼女も笑みを返す。
「なかなか洒落たラブレターだ。ちょっと会ってみたくなったよ」
ウェッタは手紙を握りしめて不敵に笑った。




