第3話 夜勤は少人数で安全と体調管理を背負う勤務である
介護施設の夜勤は、外から見ると静かな仕事に思われるかもしれない。
夜なのだから、利用者は寝ている。
日中ほど動き回ることはない。
少し見守っていればよい。
そう想像する人もいるかもしれない。
だが、実際の夜勤はそのようなものではない。
夜勤は、少人数で施設全体の安全を背負う勤務である。
日中であれば、職員の人数はまだ多い。
もちろん、それでも十分とは言えない。
しかし、日中は他の職員に声をかけられる。
相談できる。
手が足りなければ応援を呼べる場面もある。
看護師や他部署との連携もしやすい。
夜勤は違う。
職員は少ない。
場合によっては、フロアや施設の多くの利用者を、夜勤職員二人で見ることになる。
その二人で、巡回、排泄介助、センサー対応、体調管理、事故対応、記録、看護師への報告まで行う。
しかも、夜だからといって利用者のリスクが消えるわけではない。
むしろ夜間だからこそ起きやすい問題がある。
センサーマットのコールが鳴る。
利用者がベッドから起き上がろうとする。
トイレに行こうとする。
車いすに移ろうとする。
転倒リスクが出る。
夜間せん妄や精神症状によって、問題行動が起きることもある。
認知症症状によって、説明が通じないこともある。
職員は、そのたびに動かなければならない。
夜勤には、定時巡回がある。
一時間ごとに利用者の様子を確認する。
寝ているか。
呼吸状態はおかしくないか。
ベッドからずり落ちていないか。
布団が乱れていないか。
体調に変化はないか。
排泄状態はどうか。
センサーの位置は適切か。
異変がないか。
ただ歩いて見るだけではない。
利用者の状態を確認し、必要があればその場で対応する。
巡回中に汚染が見つかれば、更衣や清拭が必要になる。
おむつ交換が必要になることもある。
寝具交換が必要になることもある。
体調不良があれば、看護師へ報告しなければならない。
転倒や受傷があれば、事故対応が必要になる。
そして、対応したことは記録に残す。
電子カルテに記録する。
いつ、何が起きたのか。
どのように対応したのか。
利用者の状態はどうだったのか。
看護師へ報告したのか。
その後の経過はどうか。
夜勤は、動くだけでは終わらない。
動いた後に、記録も残さなければならない。
さらに、夜間には体調管理の仕事もある。
発熱している利用者がいれば、定時で体温測定をする。
水分補給を行う。
必要な投薬があれば確認する。
アイスノンや氷枕を交換する。
状態が悪ければ看護師へ報告する。
指示があれば、それに沿って対応する。
これは、単なる見守りではない。
夜勤職員は、少人数で利用者の変化に気づき、初期対応を行い、必要に応じて看護師へつなぐ役割を持っている。
しかも、その間にも他の業務は止まらない。
センサーは鳴る。
トイレ希望は出る。
巡回時間は来る。
別の利用者が起きる。
記録を書かなければならない。
汚染対応が発生する。
体調不良者の様子も見なければならない。
一つの対応をしている間に、別の対応が必要になる。
この重なりが、夜勤の負担である。
夜勤には休憩がある。
制度上は、交代で休憩を取ってよいことになっている。
しかし、休憩があることと、休めていることは違う。
夜勤職員が二人しかいない場合、一人が休憩に入れば、もう一人が現場を見る。
しかし、完全に切り離されるわけではない。
何か大きなことが起きれば、休憩中でも気になる。
相方の職員に負担が偏らないかも気になる。
センサー音や物音が聞こえれば、気が休まらない。
さらに、休憩場所が十分に整っているとは限らない。
簡易ベッドを利用者食堂に置いて、そこで交代で休憩するような環境もある。
それは形式上の休憩ではある。
だが、心身が本当に休まる環境とは言いにくい。
利用者の生活空間に近い場所で休む。
すぐ近くで何かが起きる可能性がある。
もう一人の職員にも気を遣う。
完全に仕事から離れられない。
この状態で「休憩を取っている」と言われても、実感としては休めていない。
夜勤の負担は、勤務中だけではない。
夜勤が月に六回から八回ほど入ると、生活リズムそのものが崩れる。
夜勤入りの日がある。
夜勤明けの日がある。
その後の休みがある。
この三日単位で生活が削られていく。
夜勤入りの日は、日中から夜勤に備える必要がある。
夜勤明けの日は、帰っても疲労が強い。
休みの日も、完全に回復するとは限らない。
夜勤が多ければ、日勤は少なくなる。
しかし、常勤職員である以上、少ない日勤の中で、日勤の業務も背負うことになる。
日勤が多い非常勤スタッフができない仕事をする。
レクリエーションを担当する。
行事準備をする。
記録や調整をする。
現場全体の流れを見なければならない。
夜勤で生活リズムを崩しながら、少ない日勤で常勤としての責任も果たす。
これが重なると、負担はかなり大きい。
夜勤は、夜に働くというだけではない。
少人数で安全を守る。
体調不良に対応する。
事故を防ぐ。
事故が起きれば対応する。
看護師へ報告する。
投薬や水分補給を行う。
アイスノンや氷枕を交換する。
体温測定をする。
センサーマットのコールに対応する。
一時間ごとの巡回をする。
電子カルテに記録を残す。
精神症状や認知症症状による夜間の問題行動にも対応する。
これらを、少人数で行う。
だから夜勤は、静かな勤務ではない。
むしろ、少人数で高い責任を背負う勤務である。
外からは、夜勤手当があるからよいと思われることもある。
だが、夜勤手当は、夜勤の負担を軽くするものではない。
せいぜい、その負担に対する補填でしかない。
本当に見るべきなのは、夜勤がどれだけ現場職員の身体と精神を削るかである。
眠れない。
休めない。
気を抜けない。
事故が怖い。
記録が残る。
判断を間違えれば責任につながる。
少人数だから、逃げ場が少ない。
この負担を知った上でなければ、介護現場の実態は分からない。
夜勤は、利用者が眠っている時間をただ見守る仕事ではない。
眠っているはずの時間に、何が起きても対応できるように、少人数で施設全体の安全を背負い続ける仕事である。




