6.そろそろ真面目に仕事します
ブランシュ・リリー院は、一般市民街の北東に位置する施設で、サン・ミカエル院と比べれば規模は小さいものの、手入れの行き届いた清潔な施設だった。
運営者は穏やかで誠実な人柄で、子供たちもクッキーを見て目を輝かせてくれた。援助金の使い道も、聞いた限りでは不自然な点はない。
(規模は違えど、きちんとやってるわね)
続くオーロラ学舎は、一般市民街の東の端に位置している。施設のあちこちに古さが目立ち、資金不足が見て取れた。それでも運営者は熱心で、子供たちの表情は明るかった。
(ここはお金さえあれば、もっと良くなりそうね)
次に向かうサント・クロワ院は、下層市民街の南東に位置している。馬車が進むにつれ、街の景色は少しずつ変わっていった。
整えられた石畳が途切れ、路地には生活の残滓が溜まっている。饐えた臭いが鼻をつき、行き交う人々の顔には疲弊の色が濃い。公爵家に生まれ育ったコーデリアには、縁のなかった世界だった。
(これが、同じ王都の中の話なの)
思わず窓の外を見つめたまま、しばらく言葉が出なかった。
(衛生面もひどいわね。病気が広がったら、あっという間に王都全体に蔓延するんじゃないかしら)
現代知識が、静かに警鐘を鳴らしていた。
(もしも私が王妃になったら、真っ先にメスを入れたいわね)
もっとも、婚約者があのアホっぷりのままなら、その結婚を成立させるつもりは毛頭ない。
門をくぐった瞬間、コーデリアは思わず足を止めた。
施設は古く、壁のあちこちにひびが入っている。子供たちの服もあちこちが擦り切れ、頬はこけていた。資金不足は一目瞭然だった。それなのに。
(なぜ、この子たちの目はこんなに輝いているの?)
白髪交じりの穏やかな笑顔を浮かべた院長が出迎えてくれた。どうやら、彼女がこの施設の運営者らしい。資金がないながらも、子供たち一人一人の名前を呼び、丁寧に接している様子が伝わってきた。
クッキーを差し出すと、子供たちは目を丸くして、それからはにかみながら「ありがとうございます」と口々に言った。
胸の奥が、じわりと痛んだ。
(お金さえあれば、この子たちはもっと…)
「ここには、今後も力を入れてあげたいわね」
気づけば、声に出していた。リンが、静かに頷いた。
続いてステラ院へと向かった。下層市民街の南西、サント・クロワ院からほど近い場所に位置している。
門をくぐると、外観は思いのほか綺麗に整えられていた。壁は塗り直されたばかりらしく、庭の花壇にも手が入っている。
(あら、ここはしっかりしてるのかしら)
しかし中に入ると、首を傾げたくなった。子供たちの服が、外観に似合わず随分くたびれている。食事の内容も、施設の見た目から想像するより質素だった。
(外と中で、随分と違うわね)
運営者の院長は人当たりの良い中年の男性だった。話してみると悪意は全く感じられない。ただ、質問をするたびに返答がどこかずれていて、何を優先すべきかが分かっていない印象だった。
(悪い人ではないのでしょうけど……要するに、向いてないのね)
クッキーを渡すと子供たちは喜んでくれた。子供たち自身は素直で明るく、院長もこの子たちのことは大切にしているのだろう。ただ、その愛情がうまく形になっていない、そんな印象だった。




