4.インスタントラーメンは「神」だった
さて、次はどの順番で回るか、だ。
屋敷に戻ってお茶会での出来事を両親に報告する。執事のアランを連れて自室に戻ると、テーブルに丁寧に地図を広げ、それぞれの孤児院の位置や規模、把握している限りの情報を説明してくれた。アランは公爵家に長年仕える切れ者で、コーデリアの無茶な要望にも眉ひとつ動かさず応えてくれる、頼もしい男だ。
コーデリアはしばらく腕を組んで地図を眺めていたが、やがてぱん、と両手を叩いた。
「いいわ、面倒だから時計回りにしましょう」
「御意」
アランの表情は微動だにしなかったが、その目が一瞬だけ泳いだのを、コーデリアは見逃さなかった。
王太子妃教育の合間を縫って、順に孤児院を回る計画を立てた。
訪問の準備として、やはり手作りのお菓子が無難だろう。普段から絶品料理を提供してくれる公爵家の料理長に、クッキーの作り方を教わることにした。
「子供達へのお土産ですの。一緒に作りながら教えてくださいまし」
料理長は目を丸くしたが、快く引き受けてくれた。傍らでは専属侍女のリンが、慣れた手つきで材料を並べながら、静かに様子を見守っている。
前世では料理は壊滅的だったが、コーデリアの体は優秀らしい。お店に出してもおかしくないほどの質で、お菓子があっという間に出来上がった。
(良かったわ。さすがに、黒焦げの炭を子供達にあげる訳にはいかないもの)
前世での一番の得意料理は、インスタントラーメンだった。鍋にお湯を沸かして麺を投入するだけで完成する、実に画期的な一品である。
こんな素晴らしい食べ物をよくぞ先人達は開発したものだと、過労死する寸前の帰宅後に調理しながら、毎日涙したものだ。
それを思えば、今こうして本物のクッキーが焼けたのは、ひとえに料理長のおかげである。
コーデリアがにっこりと笑顔を向けると、料理長は不思議そうな顔をしながらも、とても嬉しそうに笑顔を返してくれた。
優秀な血統というのは素晴らしい。心の中で、密かに両親とその先祖たちに、そしてもちろん料理長にも感謝したコーデリアであった。
スーパーカップ1.5倍とんこつラーメンが好きです。私が。




