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大っ嫌いな婚約者を聖女に押し付けようとしたら、あまりに良い子すぎるので廃嫡路線に切り替えました  作者: 海月あお
第三章 静かなる準備期間

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44.哀れなチワワ

廊下を歩いていた時のことだった。


角を曲がったところで、コーデリアは足を止めた。


少し先の廊下に、侍女が三人集まっていた。その中心に、リュカがいた。


「リュカ様、ご要望の本が届きましたわ」


「街で人気のお菓子を買ってきましたの。良ければお召し上がりください」


「わぁ、嬉しい! ありがとう、みんな!」


リュカの顔が、ぱっと輝いた。侍女たちがきゃあと声を上げた。


「とても人気店なので、長蛇の列ができるんですの!」


「でも、リュカ様に喜んでいただけると思ったら、待っている時間もあっという間でしたわ!」


コーデリアは、廊下の角から、その光景をしばらく眺めた。


(チワワが……手懐けているのか。それとも、手懐けられているのか)


どちらなのかは分からない。ただ、一つだけ確かなことがあった。


「あざとかわいい」だけで成長した男性の末路、それは——


(このままでは、将来確実に『ヒモ』だわ)


なお、リュカがゲーム内で優秀な炎魔法の使い手であったことを、コーデリアは知らなかった。『あざとかわいい』が気持ち悪すぎて育成をサボった結果、バッドエンドを迎えたからである。ゲーム内の彼は悲惨な末路を迎えたが、その原因が他でもない自分自身にあったことに、コーデリアは微塵も気づいていなかった。


自らの優秀さに気づいてもらえないリュカ、哀れである。


(チワワをこのまま、見殺しにしてはいけないわ……!)


それは姉としての責任であった。ちなみに、チワワではなく、リュカである。


コーデリアは一つの決意をすると、楽しそうに話題に花を咲かせている彼らの元へ歩み寄った。


「リュカ」


「うわっ」


突然声をかけられたリュカは驚きの声をあげた。侍女たちも慌てて頭を下げる。


「明日、裏での騎士団用訓練場に来なさい。必ずよ」


「え? あ、姉上、急に何を突然おっしゃるのです! 僕にも都合というものがーー」


「いいから! 必ずよ! 約束ですわよ!!」


いつになく深刻な表情で詰められて、リュカは顔を上下に振った。リュカの了承を確認できたコーデリアは、来た時と同じ勢いでその場を去った。


(どんな手を使っても、生き延びる術を教えてやらなければ)


炎魔法の使い手であり、公爵家の息子でもあるリュカにどんな生き延びる術が必要なのか、その時にはまだ定かではなかったが。コーデリアは固く決意をしたのだった。



*****



翌朝、訓練場にリュカが姿を現した。


渋々、という言葉がこれほど似合う登場もなかった。


訓練場に入った瞬間、リュカは固まった。


「………………!!」


花柄の砂袋チョッキを装着したガストンが、無言でリュカを見つめていた。その目には、哀れみが宿っていた。先輩としての、確かな哀れみが。


セドリックは少し離れた場所で、苦笑いを浮かべながら佇んでいた。


そしてコーデリアは、鬼気迫る勢いでリュカを見つめていた。


リュカの顔が、じわじわと蒼白になっていった。


「よく来たわね、リュカ。さぁ、始めるわよ。生き延びるために」


いや、もはや意味が分からない。


(だ、誰か助けてーーーっ!)


リュカは声にならない悲鳴をあげたのだった。



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