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大っ嫌いな婚約者を聖女に押し付けようとしたら、あまりに良い子すぎるので廃嫡路線に切り替えました  作者: 海月あお
第三章 静かなる準備期間

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43.素直に嬉しい

側妃サフィーナ専用の庭園に招かれたのは、これが初めてのことだった。


案内された先には、小さなテーブルと椅子が二脚、静かに置かれていた。早春の風が、白い花をそっと揺らしていた。


「あなたと会うのは、久々ね」


サフィーナは、穏やかに微笑んだ。


「ええ、そうですわね」


当たり障りのない話が、しばらく続いた。季節のこと、王城の近況のこと。二人の間に流れる空気は、以前より幾分柔らかかった。


自然と、話は孤児院のことへと移っていった。


引き渡しのこと、子供たちのケアのこと。コーデリアが静かに話すのを、サフィーナは静かに聞いていた。


「——カリタス院の件」


サフィーナが、ふと口を開いた。


「わたくしは、何もできなかったわね」


謝罪ではなかった。しかしその一言に、全てが込められていた。立場上動けなかった、それでも目を光らせ続けていた、その重さが、静かに滲んでいた。


コーデリアは、少しの間だけ間を置いた。


「いいえ」


「……?」


「側妃様は、清掃活動の案を通してくださいました。それに——」


「あなた、孤児たちに勉強の機会を作ったそうですね」


サフィーナが、静かに続けた。


「ええ」


父から聞いたのだろうか。コーデリアは頷いた。


「とても良い取り組みだと思ったので、わたくしの方でも、一般市民街の子供たちに学校教育を広めることにしたの。もう、動き始めているわ」


コーデリアは、目を瞬かせた。


「側妃様は、ずっと民を守ってくださっていたのですわ」


サフィーナは、しばらくコーデリアを見ていた。


それから、静かに微笑んだ。


「よくやったわね」


「……恐れ入ります」


コーデリアの頬に、わずかに赤みが差した。褒められ慣れていないわけではなかった。しかしこの人に言われると、どうにも素直に受け取ってしまう自分がいた。


早春の風が、また白い花を揺らした。



*****



同じ頃、アルメリア公爵邸の一室では。


「——以上が、此度の報告になります」


ロランが、静かに言った。淡々と、しかし必要なことは全て伝えていた。


ヴィクトルは、にこにこしながら聞いていた。


「第二王子の婚約の件、ご苦労だったね」


「別に」


「あれくらいが丁度良いよ。今の彼の立場からしたら、ね」


小国との婚約。武力も影響力も、王太子の権利を脅かすほどではない。しかし足場としては十分だった。宰相派も静観するしかない、絶妙な塩梅だった。


アランは、無表情で立っていた。


「——それと、一つ」


ロランが、付け加えた。


「ある領地で、少し動きがあります」


ヴィクトルの笑みが、すっと消えた。


一瞬だけだった。


「——そうか」


それだけだった。


すぐに、いつものにこにこが戻った。


アランは、何も言わなかった。ただ、無表情のまま、静かに立っていた。



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