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大っ嫌いな婚約者を聖女に押し付けようとしたら、あまりに良い子すぎるので廃嫡路線に切り替えました  作者: 海月あお
第三章 静かなる準備期間

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42.急に暇になるパパ

時は、少し遡る。


闇オークション事件が終わった、その翌日のことだった。


家族で朝食を取っていた。窓から朝の光が差し込み、穏やかな空気が食卓を満たしていた。


ヴィクトルが、おもむろに口を開いた。


「そういえば、コーデリア」


「はい、何でしょう、お父様」


「あの時の子だけど——そうそう、何だっけ。ロランが連れてきた、黒髪の子だ」


「カインのことですわね」


「そう、カイン君。確か、君が引き取ると彼に話をしたんだっけ?」


「ええ、そうですわ。確か、今は使用人たちと一緒に過ごしていると思いますが」


ヴィクトルは、にっこりと笑った。


「いいねぇ」


何がいいのか、コーデリアにはさっぱり分からなかった。


「おお、そうだった」


突然、何かを思い出したように手を叩く。


「この後、ちょっと暇なんでね。せっかくだから、私が直接、カイン君を面接してあげよう」


「え? お父様がですか?」


「後で私の執務室に連れてきなさい、コーデリア」


にこにこ笑みを浮かべながらも、有無を言わさない口調だった。


それだけ言うと、ヴィクトルはすでに次の話題に移っていた。朝食の席は、何事もなかったように続いた。


アルディア王国の影の実力者とも言われる軍務卿が、暇なはずなどなかった。しかし、その場で誰一人として突っ込みを入れるものはいなかった。



*****



執務室の扉の前に、カインは立っていた。


(……入りたくない)


本音を言えば、このままここから逃げ出したかった。


あの夜の作戦会議の場を、カインはまだ覚えていた。地図に書き込まれた矢印と文字。淀みなく動く影たち。騎士団を動かし、闇オークションの会場ごと一網打尽にした、あの手際。あれが、アルメリア公爵家というものだった。


そしてその頂点に立つのが、今扉の向こうにいる男である。


(絶対に、逆らってはいけない人だ……)


それだけは、はっきりと分かっていた。


アランが、無言で扉を開けた。


カインは、覚悟を決めて中に入った。


ヴィクトルは書類から顔を上げ、カインをひと目見るなり、にこりと笑った。


「やあ、カイン君。まあ、座りなさい」


それからヴィクトルは、根掘り葉掘り聞いた。


生まれはどこか。両親のことは。今まで何をしてきたか。得意なことは。苦手なことは。将来どうしたいか。


カインは一つ一つ、正直に答えた。隠しても仕方がないと思った。何より、目の前の男の目が、全部見透かしているような気がしてならなかった。


アランは一言も喋らなかった。ただ、無表情で立っていた。


どれくらい経っただろうか。


「いいねぇ」


ヴィクトルは、にこにこしたまま言った。


「面白そうだから、君、採用」


「——え?」


拍子抜けするほど、あっさりしていた。



*****



それからのカインは、文字通り寝る間も惜しんで学んだ。


礼儀作法、立ち居振る舞い、文字の読み書き、計算、護衛の基礎。アランの後ろについて回りながら、見て、聞いて、覚えた。頭に叩き込んだ。孤児院での生活で培った勘の良さが、ここでも存分に発揮された。


ある朝、アランがカインを呼び止めた。


「カイン」


「はい」


「なかなか見込みがあります」


それだけだった。


アランはすぐに踵を返した。


カインはしばらく、その背中を眺めていた。


褒められた、ということは、分かった。



*****



時は戻り、春。


今日は、コーデリアが側妃サフィーナのお茶会に参加する日だった。準備を整えて出立に向かう時、廊下でカインを見つけた。


パリッとした侍従服に身を包んで忙しそうにしていたが、コーデリアの姿を目にした途端、彼はパッと頭を下げた。


コーデリアは、ひと目見て言った。


「あら、意外と似合うのね」


クスリと笑い、馬車へ向かって歩き出した。


カインは、その場に立ったまま動けなかった。


顔が、熱かった。


(……なんで、こんなに顔が熱いんだ)


悲しいかな、完全なる一方通行であることを知っているのは、ただアラン一人であった。



普段はアランや他の人が面接をするのに、カインだけパパンが面接をしています(笑)

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