41.大丈夫よ
カリタス院の夜から、事後処理が始まった。
闇オークションに関わった者たちの調書を取るだけでも、相当な時間がかかった。会場にいた客の身元確認、証拠品の整理、売買に関わった仲介業者の洗い出し。騎士団と影が手分けして動いたが、それでも、処理が終わる頃には年を越していた。
子供たちからの聴取は、特に難航した。
大人を前にすると、口を閉ざしてしまう。当然だった。彼らにとって、大人とはそういう存在だったのだから。表の施設の子供たちにはコーデリアが、裏の建物の子供たちにはカインが、必ず傍についた。二人がいる時だけ、子供たちはぽつりぽつりと話し始めた。
引き取り先については、コーデリアはずいぶんと考えた。
裏の建物の子供たちについては、ステラ院しかないと思っていた。清掃活動の縁で顔見知りになった子達がいる。あの繋がりが、きっと助けになる。
表の施設の子供たちについては、もっと慎重に考えた。あの子達は、大人によってひどく傷つけられてきた。だからこそ、温かい人達に囲まれる場所がいい。サント・クロワ院の院長の顔が、自然と浮かんだ。年齢が上の子達は、ブランシュ・リリー院の方が落ち着けるだろうとも思った。
ただし問題があった。
サント・クロワ院もステラ院も、今の施設では手狭になる。同じ場所に建て直すにも土地が足りなかった。もう少し広い土地を探すところから始めなければならず、それだけでまた時間が取られた。
*****
ステラ院への引き渡しは、晴れた午後のことだった。
新しい施設はまだ建設中だったが、子供たちを預けるには今の院の方が温かみがあるとドミニクが言い張ったため、仮の形での引き渡しとなった。
院の前に着くと、見覚えのある少年が駆け寄ってきた。清掃活動の現場で、何度か見かけたことがあった、あの少年だった。
「あ——あの時の!」
少年の声に、裏の建物の子供たちの中から三人が顔を上げた。カインに内緒でこっそり清掃活動に混じり、銅貨を稼いできた、あの三人だった。
少年が駆け寄り、三人を取り囲んだ。他の院の子供たちも集まってきた。
言葉より先に、笑顔があった。
それを見ていた他の子供たちが、少しずつ表情を緩めていった。
一人だけ、動かない子がいた。
腹を蹴られた、あの子だった。他の子たちが輪の中に入っていく中、カインの服の端を、小さな手でぎゅっと握ったまま離さなかった。
カインは、その場に膝をついた。
「オレも、たまに顔を出すから。安心しろ」
子供は、しばらく俯いていた。
それから、小さく頷いた。
カインは、その頭にそっと手を置いた。
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ブランシュ・リリー院への引き渡しは、その翌週だった。
年齢が上の子供たちは、物事をよく見ていた。教えられたわけではなかった。ただ、そうしなければ良い引き取り手には貰われないと、身をもって知っていただけだった。
院に着いた時、院長の顔を一通り確認して、それから互いに視線を交わした。
言葉はなかった。
しかし少しずつ、その表情が和らいでいった。
コーデリアは引き続き、ケアに通うことにした。
*****
サント・クロワ院への引き渡しは、穏やかな冬晴れの日だった。
院長のセシルが、扉の前で待っていた。
子供たちは、コーデリアの後ろに固まったまま、なかなか前に出ようとしなかった。セシルは急かさなかった。ただ、静かに微笑んでいた。
コーデリアが、子供たちの前にしゃがんだ。
「大丈夫よ。ここの院長様は、優しい方だから」
子供たちは、コーデリアを見た。それから、セシルを見た。またコーデリアを見た。
セシルが、もう一度微笑んだ。
その笑顔が、コーデリアの笑顔に、どこか似ていた。優しさの形が、似ていた。
一人の子供が、セシルとコーデリアを何度か見比べた。
それから、小さく頷いた。
一歩、前に出た。
他の子供たちが、後に続いた。
*****
引き渡しが一段落した頃、カリタス院の跡地に騎士団が改めて調査に入った。
裏の建物から、怪しいものが見つかったという。
人身売買の事件もあった。縁起も悪い。そういう判断が下されたようだった。
跡形もなく、更地にしてしまうことになった。
解体が終わった頃には、春が目前に迫っていた。
桜の蕾が膨らみ始めた頃、コーデリアは十一歳になった。




