表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大っ嫌いな婚約者を聖女に押し付けようとしたら、あまりに良い子すぎるので廃嫡路線に切り替えました  作者: 海月あお
第二章 改革と暗闇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/49

38.これがアルメリア

深夜だった。


(——なんだ?)


物音で目が覚めた。


カインは寝床から身を起こし、耳を澄ませた。外が、妙に騒がしかった。いや——騒がしいのではない。音を消そうとしている気配が、する。


静かに外へ出た。冬の夜気が、鋭く頬を刺した。


路地の先に、馬車が停まっていた。一台ではなかった。灯りを落とした馬車が、何台も、音を立てずに並んでいた。


(これはーーやばい!!)


踵を返し、裏の建物へ駆け戻った。眠っている子供たちを、音を立てないように一人ずつ叩き起こす。


「まずいことになった。俺はコーデリアを呼んでくる。すぐ戻るから、待ってろ!」


それだけ言って、走り出した。


コーデリアが教えてくれた裏道を、全力で駆け抜ける。夜の王都は暗く、足元は見えなかった。


表の施設の子も、裏の建物の子も、時折いなくなることはあった。しかし——馬車があんなに並ぶことは、今まで一度もなかった。


(一体、何が——)


起こしたあの子供たちの顔が目に浮かぶ。不安で胸が押しつぶされそうになった、その時。


馬の駆ける音が聞こえてきた。


「乗れ!」


速度を落としながら、騎乗の人物が腕を伸ばしてくる。一体何者か、なぜこんな深夜に黒づくめの男が馬を駆けているのか。


足が止まりかけた、その瞬間。


「早く! 時間がないんだろ!」


その目が、コーデリアに似ていた。


「——っ、分かった!」


次の瞬間、腕を掴まれ引き上げられていた。


「アルメリア公爵家に向かう」


「……あんたは?」


「ロランだ」


返答は短かった。


「速度を出す。全力で捕まってろ」


夜の王都を、馬が駆け抜けていった。



*****



その時、寝静まった寝室に、リンが入ってきた。眠るコーデリアの肩に、静かに手をかける。


「お嬢様」


普段と違う様子だったのは、即座に分かった。


「何かあったの?」


「カリタス院が動きました」


その瞬間、コーデリアはすぐに駆け出した。


「お父様!」


軽装に着替えたコーデリアが扉を開けて中に入ってきた。


「来たか」


「ええ、状況はどうなの?」


ヴィクトルの隣に立つアランが説明をする。机に広げられた地図には、すでに細かい文字と矢印がびっしり書き込まれていた。


「まず、表の施設の子供、裏の建物の子供が馬車に乗せられ、二手に分かれて目的地に向かっております」


「そうなの? 行き先は?」


「現在追跡中ですが、まぁ、おおかたこの辺りでしょう」


中規模の貴族が住む地域と下層市民街の中に、丸をつけられた建物があった。潜入のための入り口、見張りの位置。全て打ち合わせ済みなのだろう。


「子供たちは無事なの? ラルドンや、集まってる悪党どもは——」


「騎士団に任せるよ。アンリに、シリルと共に行かせている。アンリだけでは説得力不足だろうが、シリルがいれば、まぁ大丈夫だろう」


ヴィクトルは答えた。アルメリア公爵家次期当主としての重さを用いたのだろう。


コーデリアは息を飲んだ。長男シリルも、三男アンリも、すでに動いていた。自分がこの部屋に着く前に、もう全てが動き出していたのだ。


これが、アルメリア公爵家。そしてーー軍務卿ヴィクトル・ロゼ・アルメリア。


その時、扉が再び開いた。


そこにいたのは、カインと、黒装束に身を包んだ次男ロランだった。


「カイン! 無事だったのね!!」


「コーデリア……」


コーデリアはカインの元に駆け寄る。カインはまだ、己が置かれている状況を飲み込めていないようだった。


コーデリアは横に立つロランを見上げる。


「お兄様が、カインを連れてきてくださったのですね」


「お兄様? ——って、もしかしてこの人が」


カインは自分をこの場に連れてきたロランを見上げて、驚きの声をあげた。


「コーデリア、よく頑張ったな」


ロランはコーデリアの頭を優しく撫でると、ヴィクトルの元へ行く。その後ろ姿を見ながら、コーデリアは今までの自分の取り組みは無駄ではなかったのだと知り、目尻に涙を浮かべた。


(でも……本番はこれからだわ)


乱暴に袖で目元を拭い去ると、まだ呆けているカインを連れてロランの背中を追いかけた。



*****



二手に分かれて動くことが決まった。


カインはアランと共に裏の建物の子供たちのもとへ。コーデリアはロランと共に表の施設の子供たちの救出へ。


出発の準備が整った頃、夜はまだ深かった。


カインはアランの前に乗った。コーデリアはロランの前に乗った。


馬が並んだ瞬間、コーデリアはカインを見た。


「気をつけて」


「ああ。お前も……」


それだけだった。


二頭の馬が、夜の王都へ向けて走り出した。


すでに影達が配置されている、その場所へ——




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ