27.お願いします
馬車の中で、コーデリアは必死にペンを動かしていた。石畳の上を走る馬車はそれなりに揺れたが、コーデリアには気にする由もなかった。
王城への訪問ということで、侍女達の手により髪は完璧に整えられ、肌は丁寧に手入れされ、ドレスは一分の隙もなく着付けられていた。仕上がりは完璧だった。準備に要した時間も、完璧だった。
その結果、報告内容をまとめる時間が、完璧に消滅していた。
(その時間を返してほしいのだけれど!!)
必死にペンを走らせる主人を、リンは静かに見つめていた。
コーデリアはペンを止めず、頭の中を整理しながら書き続けた。
清掃活動の仕組み。孤児院全体への周知。月二回の合同清掃。成功報酬制。資金源として貴族からの王都整備費名目での少額徴収。
骨格は既にある。問題は、貴族達をどう動かすかだ。
馬車が止まった時、コーデリアはちょうどペンを置いた。
宮廷侍女に連れられた場所は、応接間だった。窓から午後の光が差し込み、小さなテーブルの上には湯気の立つカップと、一口大のクッキーが数枚並んだ小皿があるだけだった。余計なものが、何もなかった。
コーデリアは内心、ほっとした。
サフィーナはコーデリアが席に着くのを待って、静かに口を開いた。
「話を聞かせてください」
コーデリアは手帳を開いた。
現物支給では補えない現金の不足。支援金を渡せば暴漢に狙われる危険。ならば子供達が自分たちで稼げる仕組みを作る。孤児院合同の清掃活動、月二回、成功報酬制。資金源として王都整備費の名目で貴族から少額を徴収する。
一通り話し終えると、サフィーナはしばらく黙っていた。
「よく、そこまで考えましたね」
口元が、僅かに緩んでいた。
「支援ではなく、労働の対価として。理にかなっています」
コーデリアは小さく頷いた。
「ただ、貴族達への説得が——」
「それはわたくしに任せなさい」
遮るように、サフィーナが言った。迷いが、まるでなかった。
「少し時間はかかります。待っていてください」
そう簡潔に述べると、サフィーナは静かに紅茶を口に含んだ。
コーデリアは一瞬、言葉を探した。しかし続ける言葉が見つからなかった。この人に任せると言われたなら、任せる以外にない。そういう重さが、その一言にはあった。
「……よろしくお願いいたします」
窓の外では、午後の光が静かに傾き始めていた。




