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大っ嫌いな婚約者を聖女に押し付けようとしたら、あまりに良い子すぎるので廃嫡路線に切り替えました  作者: 海月あお
第二章 改革と暗闇

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24. ポンコツは廃棄処分が望ましい

新緑の季節、王妃マリアンヌから城に招待された。いつの間にか『定例』になってしまったお茶会である。


王族のお茶会を断ることはできないため、コーデリアは静かに従うしかなかった。マリアンヌは、悪い人ではない。ただ、執務は側妃に任せきりで、お茶会と刺繍と後宮の園芸に全力を注いでいる、それだけのことだった。


問題は、今日もマリアンヌの隣に、見知った金髪碧眼が腰を下ろしているという一点だった。


(……またいるのね)


げんなりとしながら、先月の誕生日のことを思い出す。


公爵邸の祝いの席に、王太子オスカーは一応顔を出した。プレゼントだけ置いて、即帰宅した。中身は自身の身長と同じほどの、巨大なうさぎの縫いぐるみだった。


(……どこに置けというの、これを)


一般的な九歳の貴族令嬢なら喜ぶのかもしれない。だが、前世でサバゲー用品にボーナスを注ぎ込んでいた彼女には、保管場所すら思い浮かばなかった。さすがに捨てる訳にはいかないので、何とか活用方法を検討し、苦肉の策として孤児院に寄付をした。子供たちが目を輝かせて群がる姿をみて、コーデリアは実に有意義な不用品処分になったと満足した。


「——そういえば、コーデリア嬢」


マリアンヌの声が、回想を断ち切った。


「孤児院の慰問を続けていらっしゃるとか。本当に感心だわ」


「おかげさまで、各院の状況も少しずつ整ってまいりました。子供たちの様子も、巡回を始めた頃とは随分と変わってございます」


「まあ」


マリアンヌが目を細める。


「コーデリア嬢は本当に優秀ねぇ。ねえ、オスカー。あなたもこれくらいやってのけてくれたら、お母様はとても安心なのだけれど」


先ほどから密かに続いていたオスカーの貧乏ゆすりが、ぴたりと止まった。


ぎりっと奥歯を鳴らし、オスカーは乱暴に立ち上がる。


「コーデリア嬢と比較されるとは心外です。気分が悪くなったので、これで失礼します!」


鼻息も荒く、オスカーはこの場から退出していった。


「あら」


マリアンヌが首を傾げた。


「あの子、どうしたのかしら」


きょとんと不思議そうに、オスカーを見送っている。


(……本気で言っていらっしゃるのかしら、この方)


コーデリアは微笑みを崩さなかった。崩したら負けだと、この数ヶ月で学んでいたのだ。


ふと、噂で耳にしたことを思い出す。側妃様には息子がいる、と。銀髪紫眼で側妃様にそっくりとのことだが、なぜか今まで一度も王城で顔を合わせたことはなかった。


このポンコツ王夫妻に、この第一王子である。そして自分は、この王子と結婚するつもりは毛頭ない。


(最悪の場合は——何とかなる、のかしら?)


コーデリアの悩みは尽きなかった。



*****



お茶会を辞したコーデリアは、来た道を戻りながら、廊下の先に、見覚えのある銀髪を見つけた。


王妃のお茶会に呼ばれるようになってから、帰り道でサフィーナとすれ違う機会が増えた。最初は会釈だけだった。次第に二言三言、言葉を交わすようになった。初めて会った頃は近寄りがたい冷たさを感じたものだが、ある時ふと微笑まれて、王妃とは全く異なる種類の美しさに目を奪われたことがある。なるほど、月の君と呼ばれる訳だと、コーデリアは密かに納得した。


「コーデリア嬢」


今日も、サフィーナの方から足を止めた。


「今日は少し時間が取れます。よろしければ、お話ししませんか」


「ご一緒できるのでしたら、光栄でございます」


コーデリアは静かに一礼し、先を行くサフィーナの背中を追った。


(……孤児院の報告だけでなく、息子さんのことも、少しは聞けるかもしれないわね)


連れて行かれたのは、廊下の奥にある小さなテラスだった。


整えられた中庭が見下ろせる、こぢんまりとした場所だ。椅子も卓もない。サフィーナは迷いなくそこに足を向け、手すりのそばで振り返った。どうやら、立ち話らしかった。


「最近の孤児院への支援は、どうですか」


「おかげさまで、各院の状況は少しずつ整ってまいりました」


コーデリアは簡潔に現状を伝えた。訪問頻度を調整したこと、現物支給に切り替えたこと、子供たちの顔色が変わり始めたこと。


サフィーナは静かに聞きながら、時折短く問いを挟んだ。その問いは的確で、答える側の思考まで自然と整理されていく。


「下層市民街の二院については」


コーデリアは少しだけ間を置いた。


「建物の修繕や生活必需品の補充は、かなり充実してまいりました。ですが——お金そのものが、あの場所に回る仕組みが、まだ作れていないのです」


現物では補えないものがある。急な怪我、突然の病、日々の細々とした出費。そういうものに対応できる手元の金が、下層の子供たちには圧倒的に足りていなかった。


「仕組みの設計は、わたくし一人では荷が重うございます」


「そうですね」


サフィーナは中庭へ視線を向けたまま、静かに続けた。


「また一緒に考えましょう。次に時間が取れた時に」


その時、廊下の方から足音が近づいてきた。


「側妃様」


文官が小さなテラスの入り口に現れ、恭しく頭を下げた。サフィーナは小さく頷き、コーデリアに向き直った。


「では、また」


「はい。お時間をいただき、ありがとうございました」


銀髪が廊下の奥へ遠ざかっていく。コーデリアはその背中を見送りながら、ふと思い出した。


(……結局、息子さんのことは聞けなかったわね)


新緑の風が、テラスをそっと吹き抜けた。



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