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大っ嫌いな婚約者を聖女に押し付けようとしたら、あまりに良い子すぎるので廃嫡路線に切り替えました  作者: 海月あお
第一章 孤児院巡回編

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22.逃げることも戦略

翌朝、寝不足のまま、コーデリアはヴィクトルに護身術を学びたいと申し出た。ヴィクトルは快く頷き、騎士団と接点のあるアンリに話をつけてくれることになった。なお、その際に『パパ』と呼んでほしいという懇願が飛び出したが、あっさり振られてしまった。ヴィクトルが密かに心の中で涙したのは、誰にも知られない話である。


数日後の朝、アンリが騎士団長と副団長を連れて、邸の裏手に設けられた騎士用訓練場へと向かうと、コーデリアはすでにそこにいた。髪を一つに束ね、動きやすい格好で。アンリは目を見開いた。訓練への申し出が、本気だったと初めて実感した瞬間だった。


騎士団長、ガルド・バルカスク。筋骨隆々たる壮年の男で、豪快な笑顔がよく似合う。副団長、セドリック。対照的に引き締まった体躯で、落ち着いた目つきが印象的な男だ。


ガルドがコーデリアの姿格好を確認すると、満足そうに口を開いた。


「いやあ! アルメリア公爵家のお嬢さんが護身術を学びたいと聞いてな! 他の連中では力不足と感じたゆえ、この私が直々に指導させていただくことにした!!」


豪快に笑うガルド。アンリとセドリックが、両側で静かにため息をついた。


「ありがとうございます。よろしくお願いいたしますわ」


コーデリアが淑女の礼をとると、ガルドはさらに破顔した。


「よし! では早速だが、まず腕立てを百回やってもらおうか!!」


「……え?」


「護身術を会得するにも何をするにも、まずは基礎体力が必要ですからのぅ!」


八歳の女の子に腕立て百回を課すとは、一体どういう了見なのか。アンリとセドリックは無言で顔を見合わせた。


唖然としながらも、とにかく実践あるのみだ。コーデリアはその場に伏せの姿勢をとり、腕立てを始めた。


しかし、現実は厳しかった。一、二回で両腕がぷるぷると震え出し、支えきれなくなった体が床へ落ちた。まさか、ここまで筋力がないとは。コーデリアは愕然と、自分の腕を見た。


コーデリアはその場にしゃがみ込み、ぎゅっと膝を抱えた。悔しさで、じわりと視界が滲む。


その様子を見ていたアンリは、胸の中で何かが締めつけられるのを感じた。


しばらくその様子を見ていたセドリックは、ガルドに断りを入れるように頭を下げた後、コーデリアのそばで膝をついて目線を合わせた。


「お嬢様。強くなるというのは、筋肉をつけることでも、技を身につけることだけでもありません。正面から敵に挑むことだけが、強さではないのです」


コーデリアは涙をぬぐいながら、セドリックを見た。


「まず必要なのは、体力です。走り続ける体力。それだけで、生き延びられる場面は格段に増えます」


「……走る、ですか」


「はい。お嬢様の体は小さい。真正面から戦えば、大人には敵いません。ですが小さいからこそ、すばしっこく動ける。まず叫んで助けを呼ぶ。そして逃げ回る。助けが来るまで、時間を稼ぐ。それが、今のお嬢様にできる最善です」


コーデリアはしばらくセドリックの言葉を噛みしめ、それからゆっくりと頷いた。


(……なるほど。逃げることも、戦略のうちということね)


「まずは走り込みから始めてみますわ」


セドリックは静かに微笑み、一礼した。


アンリは隣で、心の底から感心していた。この副団長は、本物だと思った。


「さすがじゃのう、セドリック!! やはりお前がおらねば、我が騎士団はどうにもならんわ! わっはっは!!」


ガルドが豪快に笑い、また辺りに声が響いた。


アンリとセドリックは、揃ってこっそりとため息をついた。



よくあるラスボス系転生ものだと、主人公が小さい頃から能力発揮して無双しますが、コーデリアはそうではないので、頭はおかしい(←)ですが、等身大の弱さを実感するシーンを入れました。

その上で、自分なりにできることを積み重ねて成長していきます。


コーデリアがどう成長していくのか。もし良かったらお見守り下さい。

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