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大っ嫌いな婚約者を聖女に押し付けようとしたら、あまりに良い子すぎるので廃嫡路線に切り替えました  作者: 海月あお
第一章 孤児院巡回編

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17.チワワに昇格

朝食が解散し、コーデリアが自室へと向かって廊下を歩き始めた頃のことだった。


「……姉上。ちょっとよろしいですか」


背後からかかった声に、コーデリアは足を止めた。


振り返ると、リュカが廊下の中央に立っていた。小さな眉は、朝食の席からずっと寄ったままだった。


「何かしら」


「何を企んでいるのですか、姉上」


「企む?」


「先程の発言です。反省した、迷惑をかけて申し訳なかったなどと——そんなの、嘘に決まっている」


「嘘ではないわ」


「嘘です!」


「わたくしの本当の気持ちですわ」


断罪ルートも婚約継続も嫌なのは、本当だ。これっぽっちも嘘ではない。


「そんなの——あんなに、僕のことをいじめてからかってきた姉上の言うこととは、到底思えない!!」


過去にされたことを思い出したのか、彼はわなわなと怒りに体を震わせている。


はて、そんな酷いことでもしただろうか。コーデリアは、自分が転生する前のことを思い出した。


屋敷の庭の池に突き落としたこと。寝室の布団に百足や蜘蛛を忍び込ませたこと。激辛のお菓子をわざわざ作って無理やり食べさせたこと。数え上げればきりがない。


(まるで、あのアホ王子みたいだったわね、過去のわたくし)


コーデリアは素直に反省した。


「そうね。あなたにも、本当に悪いことをしたわ。ごめんなさいね」


あっさりと謝られたことが、かえって癪に障ったらしい。リュカの顔が、さらに怒りに歪んだ。


「そんなの信じられる訳ないだろーー!!」


叫ぶと同時に、リュカは踵を返した。父譲りの真紅のふわふわした髪を揺らしながら、廊下を走り去っていく。


コーデリアはその背中を見送りながら、ふとゲームの記憶を手繰り寄せた。


ゲームでは、リュカは攻略対象者のうちの一人だ。王子然、冷静沈着、熱血漢等、様々な性格の攻略対象が揃う中で、彼だけが一人年下の「かわいい弟」役だった。


可愛らしい顔をしてうるうるとした瞳で甘えてくるその姿——それが、彼女には「あざとかわい子ぶり」に見え、かえって気持ち悪いものとしか映らなかったのである。


(そう——だから確か、バッドエンドだったのよね)


ゲーム内で彼は、証拠を暴いて姉を断罪する側に回るのだ。だがその後、身内を処刑まで追い込んだことへの反発が広がり、最初は彼を擁護していた者たちも次第に離れていく。やがて耐えきれなくなった彼は、領地の奥地の邸に一人寂しく引きこもる——そんな末路だったはずだ。


友達に半ば強引に押し付けられた乙女ゲームに対してやる気の出なかった彼女は、渡された攻略本も全く読まず、気持ちの乗らないキャラは適当にし、難しそうな場面では力技でゴリ押しをし——そうやって全キャラをコンプリートしただけであったので、ゲームの内容はかなりうろ覚えだったのである。もちろん、再プレイして攻略し直そうなどという考えは、微塵も浮かばなかったのである。


相手が聖女ではなく姉である自分だからか、廊下を走り去ったリュカには、あざとかわいい姿など微塵も感じられなかった。


(ゲームでの印象とは、全く違うわね)


毛がふわふわして、小さく吠える犬の名前はなんだったろうか。


(そう、確か、チワワだわ)


チワワのように、ふわふわ毛を揺らしながらキャンキャン叫ぶ。まるで、前世の時の弟たちのようだ。双子の弟たちと、さらにその末の弟——


ふっと笑った彼女の笑顔は、そんな弟たちを制していた長女の貫禄があった。


(いいわね、なんだか悪くないわ)


クスッと笑って、コーデリアはそのまま廊下を歩き出した。



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