15.影を借りました
帰宅したコーデリアは、その足で父の執務室へ向かった。
朝のアランとの打ち合わせ内容、登城しての報告——オスカー殿下とのお茶会が早々に終わったこと、王妃マリアンヌに捕まり庭園のお茶会に連れ込まれたこと、国王ゲオルグも同席していたこと。孤児院の支援について話したところ、宰相に任せておけばよいと笑い飛ばされたこと。
父は終始、静かに聞いていた。
そして——側妃サフィーナとの廊下での遭遇を話したところで、ヴィクトルの目がわずかに動いた。
「側妃殿下が、自ら声をかけてきたと」
「はい。こちらでも調べてみると、おっしゃっていました」
「……そうか」
短い返答だった。しかしその沈黙の重さを、コーデリアは聞き逃さなかった。父がこの話題に何かを感じたことだけは、確かだった。
報告を終えると、コーデリアは予算の話を切り出した。父は特に渋ることもなく、アランとの打ち合わせで弾き出した額をそのまま承認した。
「影には、さっそく調べるよう伝えたよ。調査の内容は、アランを通して君に伝えるように指示しておく」
「ありがとうございます、お父様」
「もし今後の慰問の中で、何か気になることがあれば、私ではなくアランに報告しなさい」
「わかりましたわ」
こうして、計画は静かに動き出した。
*****
それからの日々は、慌ただしく過ぎていった。
王城での礼儀作法の教育、屋敷での家庭教師による講義、仲の良い令嬢達との茶会。その合間を縫うようにして、コーデリアは孤児院を回り続けた。
カリタス院へは、月に三度から四度足を運んだ。訪問のたびに責任者の相手をしながら、その隙にリンが裏の建物へ回った。菓子、干し果物、時には温かいスープ。目立たない量を、目立たない方法で。子供たちは毎回嬉しそうに受け取って食べる中、ただ、黒髪赤目のあの少年だけは黙って受け取り、黙って背を向けるだけだったようだ。
それで十分だった。
ステラ院にはアランを入れて帳簿を整理し、オーロラ学舎には改善提案を持ち込んだ。どちらも時間はかかったが、少しずつ動き始めた。サント・クロワ院には、補給だけを静かに送り続けた。余計な手は出さなかった。あの空気を壊したくなかった。
そうして気づけば、三ヶ月が過ぎていた。
カリタス院を除く施設では、子供たちの顔色が少しずつ変わり始めていた。目に見えるほどではないかもしれない。それでも、コーデリアには分かった。
計画は、静かに、しかし確実に動いていた。




