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大っ嫌いな婚約者を聖女に押し付けようとしたら、あまりに良い子すぎるので廃嫡路線に切り替えました  作者: 海月あお
第一章 孤児院巡回編

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13.この国大丈夫か

マリアンヌに先導されるようにして歩くうち、コーデリアは城の奥へ、さらに奥へと連れて行かれていることに気づいた。


辿り着いたのは、王族の私的な庭園だった。


白い石畳の上に、丸テーブルとやわらかな曲線の椅子が三脚。庭の奥には季節の花々が整然と並び、噴水のせせらぎが遠く聞こえる。王族の私的な庭園とはかくあるべし、という絵のような光景だった。


——ただ一つ予想外だったのは、そこに国王がいたことである。


コーデリアは一瞬で体勢を立て直し、深くカーテシーをとった。


「この国を照らす太陽にして、民の父たる国王陛下、ゲオルグ・ド・アルディア陛下にご挨拶申し上げます」


(王妃陛下との庭のお茶、とはうかがっていたのだけれど)


聞いていない。完全に聞いていない。


コーデリアの内心は至って冷静に、しかし本日二度目の不意打ちにげんなりとした気持ちになった。


「うむ、楽にせよ」


ゲオルグは鷹揚に片手を上げる。


金髪碧眼、堂々たる威容。まさしく“王”という言葉をそのまま形にしたような男だった。息子と同じ色の瞳が、穏やかな笑みとともにこちらを見ている。


「プライベートな茶会ゆえ、堅苦しくせずとも良い。さあ、おかけなさい」


侍従がすっと椅子を引く。


コーデリアは優雅に腰を下ろし、背筋を伸ばしたまま、完璧な令嬢の所作でカップに手を添えた。


最初のうちは、和やかな雑談が続いた。


父ヴィクトルの近況や、王太子妃候補として受けている教育、礼儀作法、社交界への備えなど、コーデリアは質問に対して当たり障りのない言葉を選んで答えた。マリアンヌは「アルメリア家はやはりしっかりしているわね」と微笑み、ゲオルグは満足そうに頷いた。


アルメリア家の教育方針を正確に申し上げるならば、軍務卿である父は、影を用いた諜報活動まで行っている人物である。他家の令嬢教育のような、可愛らしい内容でないことだけは確かだった。


コーデリアはにこりと微笑んだまま、紅茶を一口飲んだ。


「それで——息子との仲はどうかね」


ひとしきり場が温まったところで、ゲオルグは気軽な調子で本題に入った。


「ありがたいことに、今日もご一緒する機会をいただきました」


コーデリアは微笑んだ。


「オスカー殿下は大変お忙しいご様子で、本日は早々においとまをすることになりましたが…。殿下の真摯なるお姿に、いつも感銘を受けております」


真摯なるお姿。菓子をつまみながら窓の外を見ていた、あの背中の話である。


「そうかそうか」


ゲオルグは満足そうに頷いた。


「あやつも婚約してから少しは落ち着いたかな、あっはっは」


(笑い事ではないのだけれど)


マリアンヌが、やわらかな声で続ける。


「そういえば、アルメリア公爵令嬢は孤児院を回っていると聞きましたわ。あの子にも一緒に行くよう伝えたのに——確か、ずっとお一人で?」


「ええ」


とコーデリアは答えた。


「殿下にはご多用の折ゆえ、わたくし一人で参っております」


殿下に何度か声をかけても、くだらんの一言で終わるので一人で参っております、とはもちろん口にはしない。


「各院を訪問いたしましたところ、子供たちの笑顔に、大変心を動かされました。微力ながら、今後も継続して支援に回りたいと考えております」


「まあ、なんて偉いのかしら」


マリアンヌが目を細めた。


「アルメリア公爵令嬢は本当によくやってくれておる」


ゲオルグも頷く。


「息子も、少しは見習ってくれるといいのだがな、あっはっは」


「アルメリア公爵令嬢がついていてくれるなら、あの子も将来は安心ね」


(ポンコツを人に押し付けるのではなくて、今すぐご自分たちの手で性根を叩き直していただきたいものだわ)


コーデリアは笑みを深めた。


「勿体なきお言葉でございます」


一口、紅茶を飲む。


上品な香りが鼻腔をくすぐった。茶葉は上質で、菓子も申し分ない。こういうところだけは完璧なのだから、まったく困ったものである。


——そうして、コーデリアは少し迷った。


「……一つ、よろしいでしょうか」


出来心、と言うほかなかった。


「孤児院を巡っておりますと、施設によって子供たちの様子に、大きな差がございまして」


コーデリアは言葉を選びながら、静かに続けた。


「支援が十分に届いているはずの施設でも、子供たちの環境が整っていない場所が、どうやらあるようで——資金の流れが、うまく機能していないのかもしれないと、少し気になっておりました」


王夫妻の反応を、コーデリアはさりげなく観察した。


「なんと、そうなのかね」


「まあ、それは困ったわね」


ゲオルグは眉を上げ、マリアンヌは小首を傾げる。


だが、二人の顔に深刻な色は一切なかった。


「まあ、そういった細かいことは宰相に任せておけば大丈夫だろう。あっはっは」


「そうね、彼に任せておけば安心だわ」


コーデリアは笑顔のまま、内心で静かに固まった。


(なんと、まあ……)


陛下は今、なんとおっしゃった。


(もしかして——普段から、宰相への丸投げが常態化していたりするのかしら)


細かいこと、という言葉が耳に残った。


公金の流れに不審な施設があるというのに、この方の中では『細かいこと』に分類されるらしい。


「さようでございますか」


コーデリアは微笑んで、紅茶のカップを持ち上げた。


「ご安心いたしました」


庭の噴水が、のどかな音を立てていた。



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