12.アホ王子はやはりアホだった
王城の応接室は、いつ来ても居心地が悪い。
天井まで届く調度品も、磨き上げられた床も、窓から差し込む柔らかな陽光も——全てが完璧に整えられているのに、向かいに座る人物のせいで台無しになる。
「……で、孤児院とやらを回ったと」
オスカーは窓の外を眺めたまま、興味のかけらもない声で言った。
「ええ。六か所全てを回りましたわ。施設によって環境の差が著しく、特に一般市民街のカリタス院では——」
「ふん、くだらん話など私にするな」
オスカーは鼻を鳴らして、菓子に手を伸ばした。
「孤児がどうしようと、私には関係のないことだ」
その後、会話と呼べるものは何も続かなかった。オスカーは露骨に退屈そうに窓の外を眺め、菓子をつまみ——そして開始からものの数分で、思い出したように立ち上がった。
「……もういいだろう。私は忙しい」
コーデリアは粛々と礼をして、殿下を見送った。
扉が閉まったのを確認すると、コーデリアは静かに手帳を取り出し、さらさらと本日のメモを書き留めた。
婚約を結んでまだ一年だが、手帳はどのページもすでに黒い文字でびっしりと埋め尽くされていた。
手帳をしまう。
(早く終わったのだけは、唯一評価するわ)
コーデリアは静かに立ち上がり、応接室を後にした。
*****
長い廊下を歩き、角を曲がったところで——向こうから歩いてくる数人の人影に気づいた。
「あら、アルメリア公爵令嬢」
金髪に穏やかな青い瞳。オスカーの面影が滲む、柔らかな微笑み——王妃マリアンヌだった。数人の侍女を引き連れてこちらに歩いていたが、コーデリアを確認するとその場で立ち止まった。
コーデリアはすぐに足を止め、深くカーテシーをとった。
「この国に薫る最も麗しき華、マリアンヌ・ド・アルディア王妃陛下にご挨拶申し上げます」
「楽になさって。それで、こんなところでどうしたのかしら? 確か息子と、月に一回のお茶会だった気がするのだけれど」
「……早めに終わってしまいまして。長く滞在しても皆様にご迷惑かと思い、退出しようとしておりました」
「あら、そうなの?」
あっけらかんとした声だった。
(……この方、少し苦手なのよね)
悪意がない——だからこそ、なおさら質が悪かった。己の息子の問題行動が原因なのに、申し訳なさそうな色が全く見えない。
(……やはり、あの王太子を育てただけのことはあるわね)
笑顔の内側に全ての毒を隠しながら、「ええ」と一言だけ返す。
そうしていると、マリアンヌはまるで良いことを思いついたかのように両手を軽く叩き、コーデリアににこりと微笑んだ。
「そうだわ、よかったら、少しだけ付き合ってくれるかしら。あたくしと庭でお茶でもしましょう」
「……謹んでお供いたします、王妃陛下」




