8:消失
本日5話めぇぇぇ!!
16階層へと足を踏み入れた瞬間、何か噴出されているのか視界が悪くなる。
「ソフィアさんこれは」
「知りません。こんなのは初めてです。毒ガスかもしれません。気をつけて」
「安心するのじゃ、ただの煙幕じゃ」
「恐れるでない。煙幕に過ぎぬのじゃ」
視界が効かない中で、ファフニールの声が聞こえてくる。
気のせいかもしれないが二つ重なって聞こえてた気がする。
疑問を抱いていると煙が収まっていく。
「消えましたね」
「何のための煙だったんだか」
毒ガスでもなく視界を悪くするための煙でもない。
謎であった。
「人間は弱虫じゃからの効果あると思うのじゃ」
「それは言えてるのじゃ、なっはっはっは」
「「ぬぅ! 我がおる!!」」
ファフニールとファフニールの声が重なる。
成る程、この為の煙幕か。
「貴様! 我の真似をするでない!」
「貴様こそ! 滅してやるのじゃ!!」
ファフニールとファフニールが争っている。
いや、正確にはファフニールとファフニールに擬態したモンスターか。
「か、カイト殿。もしやこれはドッペルゲンガーやもしれませんね。しかし、ドッペルゲンガーは25階層以降に現れるとの情報たったのにこんな、上層で現れるとは」
「これも、また異変の一つなのかもしれませんね。いや、しかし、そっくりだな」
艶やかな黒髪にフリフリのワンピース見事にファフニールに変化している。
「な、カイト!! お主我を見誤るのか!」
「カイト! 間違えたら滅すぞ!!」
二人のファフニールが怒気を露にする。
このモンスターは中々に厄介だ。
見分けがつかないから紛れ込まれたら判別がつかない。
冒険者にとってはある意味天敵といえる存在かもしれない。
「まぁ、でも似てるのは見た目だけだな」
左にいたファフニールの胸に剣を突き刺す。
『ななな、なzeeee』
ファフニールの姿をしていたモンスターの形がどろどろに崩れていく。
「バッチリ視えちゃうんだよな」
神眼で見ると名前の欄にドッペルゲンガーとしっかり見えてしまっている。
それに、ファフニールとはオーラが違いすぎる。
擬態する相手を完全に誤っている。
核を破壊されたドッペルゲンガーはどろどろの黒い固まりとなり地面に液体を撒きながら絶命する。
「カイト! よくやったのじゃ! 我は信じていたぞ!」
「俺がファフを間違えるわけないだろ」
「カイトぉぉ~、この愛いやつめ!」
本当はスキルによって判別出来たのだがそこは言わないでおく。
「それにしてもソフィアさん。前回来たときはドッペルゲンガーとかは現れなかったんですよね」
「ええ、一週間前にはミノタウロスもあそこまで強くなかったですし、ドッペルゲンガーもこんなに早く現れるなんて情報も聞いたこともなかったです」
「なるほど」
行方不明が増えだしたのは最近でダンジョンは少なくとも一週間前までは通常な状態だった。
そうなるとクラスメイトが王都に向かったのが3ヶ月前の為クラスメイトとの関連はないのかもしれない。
「不可解な事が多いですね。やはり、ミリアさんが居なくなった所まで行くしかないですか」
「そうですね。20階層まではもう少しです」
未だ手がかりは何一つ掴めていない。
焦燥を抱きながらも俺は進むことしか出来ないでいた。
ミリアさんが消息不明になった20階層へと俺達は着いた。
ソフィアさんが言うにはこの階層には骸骨の上位種族の骸骨騎士が出てくるらしい。
とはいえ、ここまでに来る間、ソフィアさんが教えてくれた情報の悉くが外れていた。
情報は最早当てにはならない。
「カイト殿、あれは30階層に出現するという骸骨将軍です。なんでこんな所に」
例に漏れず、ソフィアさんの情報は外れ、鎧を身に付け、大剣を持つモンスター、骸骨将軍が姿を見せる。
「カイト殿、あれは私がやります」
「はい、わかりました」
骸骨将軍、果たしてAランクのソフィアさんが手こずる程の力を持つモンスターなのか。二人の戦いを楽しみにしたい。
「推して参る」
ソフィアさんは先端が鋭く尖った細剣を構えると骸骨将軍へと飛翔する。
踏み込むと同時に風の精霊術を身に纏っているようで風の如くその動きは軽くそして速い。
「はぁぁぁぁぁ!!!!!」
疾風の如く駆けるソフィアさんは細剣を何度も突きだす。
『KAKAKA』
骨をガチガチと鳴らす骸骨将軍はソフィアさんの刺突を華麗に避けている。
ソフィアさんと骸骨将軍は共に鎧を身に付けているのに軽快に動いている。
「くっ」
いくら突いても当たる様子が無いことにソフィアさんは焦っているのか刺突の一つ一つの動作がぎこちなくなっている様に見える。
『KA!!』
回避に徹底していた骸骨将軍の瞳がギラリと光ると握っていた大剣をソフィアさんへと振るう。
「しっ____」
迫る大剣をソフィアさんは木葉が舞うように剣がぶつかる直前に体が宙に浮かび剣を躱わす。
「くっ」
完全に衝撃を逃がす事は出来なかったのかソフィアさんは膝をつく。
「パワーは向こうが上か。長引かせるわけにはいかないな。即斬させてもらうぞ!」
ソフィアさんは風を纏ったまま疾る。
先程とは違うのは細剣にもエネルギーが纏っていくことだ。
「【暴風刺突】!!」
『Gugyaaaaa』
先端が骸骨将軍にぶつかると嵐がモンスターを襲う。
風の刃がモンスターを襲いモンスターは全身を切り刻まれていく。
食らったら逃れられないえげつない技だ。
風の刃が魔石を傷つけたのか骸骨将軍はバラバラにパーツ事に別れて地面に落下してくる。
勝敗は決した。
「ふぅー」
骸骨将軍に一礼するとソフィアさんは細剣を腰にさす。
「お疲れ様です」
「ありがとうございます。私も少しは働かないと申し訳ないですからね」
「ははは」
これまで、主にファフニールが暴れていたせいで見せ場がないことを気にしていたのか。まぁ、ミリアさんを助けてくれと頼んでいる立場だとソフィアさんは思っているだろうし、俺も気を回すべきだったのかもしれない。
「ソフィアさん、ミリアさんはここで姿を消したんですよね」
「はい、この場で骸骨騎士五体との戦闘が終了して後ろを振り返った時、ミリア殿は姿を消してしまいました」
「おかしな所はないんですけどね」
隠し部屋等を探すときは壁にあるスイッチを探してみだり空洞があるかノックしたりするのが定番だが、異常は見当たらない。
「ファフニール、何か感じるか?」
ファフニールの獣の本能というべき勘は侮れない。
「うーん、そうじゃの。迷宮事態に歪な気がするがうーん、微妙じゃの。そもそも我は迷宮事態を知らんからのぉ、何とも言えんのじゃ」
「そうか」
「お主の精霊に見て回ってもらうのでは駄目なのかのぉ?」
「駄目……じゃない。そうか、その手があったか!」
燐火と雷華なら普通の壁とかなら問題なく通過出来るし離れていても俺とのやり取りは可能。人探しに此れだけうってつけの方法もないだろう。
「燐火、雷華頼めるか」
服の下から燐火と雷華が出てくる。
『わかったーー、見てくるーーーー』
『行って参ります』
二人は壁を通ろうと宙を飛んでいき、そのままぶつかる。
『あれーーー? とーれない』
『ご主人さま。どうやら私達でも通れないようですね。どうやらこの迷宮事態が魔法の一種のようです』
精霊である彼女らでも透過出来ないものがあり、その一つが魔法だ。
「カイト殿、どうでしたか?」
精霊を視る事は出来ても話している内容までは確認出来ないソフィアさんは不安げな様子で聞いてくる。
「駄目でした。通れないみたいです」
「そうですか……」
「今日はこの階層を重点的に探してみましょう。手掛かりが見つかるかもしれません」
「そうですね」
精霊も駄目、ファフニールでも駄目となると後はひたすら探すしかない。
だが、それから数時間手掛かり一つ見逃すまいと探して見たが、手掛かりらしい手掛かりは何も見つける事が出来なかった。
「……」
「……ソフィアさん」
ミリアさんを見つける事は出来なかった。
時間が経てば自ずと休息する必要がでてきて、今はソフィアさんと俺の二人が見張りでファフニールが布を引いて仮眠をとっている。
俺達の前では気丈に振る舞っていたソフィアさんも何の収穫もない事に流石にショックを受けているのか落ち込んでいる。
再会する前にギルドで見かけたソフィアさんは切羽詰まった様子だった。
一週間以上も消息を経っているミリアさんが心配で気が気ではないのだろう。
「ソフィアさん。ミリアさんとはいつからの付き合いなんですか」
「そうですね。私が冒険者になった時からだからもう四年は経ちますね。はじめはいつものんびりしているミリア殿とは馬が合わなかったんです」
「そうなんですか。でも、確かにお二人は意外な組み合わせではありますよね」
ソフィアさんは真面目な雰囲気なのに対して俺がかつてミリアさんに抱いた印象はのんびりした人だなというものだった。
「当時の私は自分の力に自信がなくてひたすら無防備に突っ込む事しか脳がなかったんです。そんな、私とたまたま組んだミリア殿は眠い眠いいいながらも私をしっかりと守ってくれたんです。だらしないと見下してた人の圧倒的な魔法を見て私は驚かされてばかりでした。私に精霊術の手解きを施してくれたり、気づいたら四年の付き合いになっていました」
「ソフィアさん……ミリアさんはきっと大丈夫ですよ。俺達はそれだけを信じましょう」
手遅れだと諦めて落ち込んでいる暇があるならがむしゃらに探し続けるしかない。信じる事しか出来ないのが現状だ。
「そうですね。それしかないですもんね。クスッ」
「なんで、笑うんですか」
「いえ、今日のカイト殿を思い出したら、本当に変わったなと。ファフニール殿といい二人にも驚かされていますよ」
「本当に凄いのはファフですよ。今の俺があるのも彼女のお陰です」
初めて敵として出会い、命を助けてもらい。そして、強くなる切っ掛けをくれた。
不思議な縁だが今となってはファフニールに会えてよかったと思ってる。
「ファフニール殿との関係は結局なんなんですか。ちらほらとお、お、夫という単語が聞こえた気がするのですが……」
夫というのが恥ずかしいのかソフィアさんは頬を真っ赤に染めている。
「そ、それは、色々あって……」
夫婦になれと言われてると明かすのは何故か恥ずかしい。
俺自身にかつてほどの拒否感はないがそれでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
というか、このやり取り聞かれている可能性あるんだよな。
仮眠を取るとは言っていたが……起きてるか確認するため振り返える。
「ファフ……?」
「カイト殿? どうしたんですか____ファフニール殿!!」
俺が唖然としていると俺と同じ事に気づいたソフィアさんが立ち上がる。
「カイト殿……ファフニール殿は……」
「ええ____消えてますね」
ファフニールが仮眠を取っていた場所では敷いてあった布をその場に残したままファフニールだけが忽然と姿を消していた。
「そ、そんな……まさか、ファフニール殿まで……」
ソフィアさんは顔を真っ青にし動揺を隠せないでいる。
「カイト殿、すいません。私がついていながらも、またもや、またもや。みすみすと仲間が消えていくのを止められないなんて」
「ソフィアさん、落ち着いてください」
「カイト殿、ですが……ですが、ファフニール殿が!」
「いえ、ソフィアさん……これは、もしかしたら希望になるかもしれないですよ」
「え……?」
ファフニールが消えた事には驚いた。だが、心配はしていない。ファフニールをどうにか出来る存在なんていない。
いるとしてもそれならどうしようもない。
もし、ファフニールが何者かに拐われたのなら、そいつは自ら化け物を内に取り込んだ事になる。
「ファフ……お前はやっぱり凄いよ」
俺に切っ掛けをくれた彼女が、今度は異常を解決するための希望の光になるのを俺は確信していた。




