3不思議な能力2
「このまま……行ってくれるか……?」
下手に動いて見つかったら?
今度こそ逃げきれない。
「けれど……戻ってきたら」
スケルトンがいなくなったことを不審に思って、次は俺のことを確認するかもしれない。
逃げるのにも、逃げないのにも勇気がいる。
「何か……せめて腕を……」
俺は隣に寝ている死体と目があった。
建物の中にあったせいなのか、死体は割と綺麗に残っている。
服は風化してボロボロだが、骨はまだ使えそうだ。
「薬指の骨はくっつけることができた。なら、他の骨も……」
俺の視線は死体の右腕に向いた。
綺麗な右腕の骨をしている。
ひび割れてひどくくすんだ俺の腕よりも良い感じに見える。
「……悪いな」
くっつけてみて、くっつかなきゃ捨てればいいだけの話。
俺は死体の右腕に手を伸ばして掴む。
音が鳴らないように、慎重に。
緊張で震える手で俺は死体の骨を右腕にくっつけてみる。
「……くっついた」
右肩が蠢くような奇妙な感覚がある。
ギリギリ視界の端に接合部が見えた。
俺の骨が動いている。
まるで小さい手でも伸ばすようにして、くっつけようとしている骨を掴んで自分のものにしていたのだ。
自分の体なのに、少し気持ち悪いと思ってしまう。
少し押し当てていると、右腕は俺のものとなった。
「……うっ!」
痛みも感じないはずの俺の頭に、鋭い痛みが走った。
俺の頭が割れんばかりに痛んで、耳鳴りがする。
得たばかりの右手で頭を押さえても少しも楽にはならない。
「何かが……頭に……」
頭に流れ込んでくるのは、記憶。
『ブツをどこに隠しやがった!』
誰かに胸ぐらを掴まれている。
人相の悪い男が息のかかるほど近くにある。
少し息が臭い。
『さあてな。どこだろうな』
声の感じからして、どうやら胸ぐらを掴まれているのは若い男のようだ。
俺の視点は、今胸ぐらを掴まれている若い男のものであった。
胸ぐらを掴む男の瞳に映るぼんやりとした姿しか見えず、容姿はよく確認できない。
自分じゃ目線すら動かせない。
やはり誰かの記憶を、その人の視点で見ているようだと俺は気づく。
『チッ……!』
『ハッ……?』
『もういい。自分で探す』
視線が下がって腹部を見る。
そこにナイフが刺さっていた。
血が流れて、熱さにも似たような痛みが頭の芯を殴りつける。
突き飛ばされるように胸ぐらから手を離されると、若い男は倒れて視線は空に向く。
『おい、周辺を探せ! 手間かけさせやがって!』
足音が遠ざかっていく。
『カハッ……』
喉を熱いものが上がってきて血を吐き出す。
下半身が痺れていくような感覚、命の灯火がだんだんと小さくなっていく。
『馬鹿なやろーだな……俺の、能力は……アイテムボックスなんだ……』
若い男は壁に手をついて立ちあがろうとする。
しかしうまく体に力が入らずに倒れる。
『どこを探してもねーよ……バーカ』
血が流れる。
今の体にはない感覚にゾクゾクとしたものを感じる。
死が迫り来る。
だがそれは生きていてこその感覚。
生々しい生が記憶の中にある。
『ち……くしょ……こんなところで…………』
視界がぼやけて暗くなっていく。
そこで記憶は途絶えた。
『アイテムボックスレベル1を簒奪しました!』
「これは……」
ハッと気づいた時には頭痛は治っていた。
まだ痛みを感じられる。
死にそうなほどの痛みだったのだけど、一方であれは俺に生の実感を与えてくれた。
そして、目の前にはまたしても表示が現れていた。
「スキルを……得た」
俺は右手を見る。
自分の好きに動かせるようになった右手は、他人のものだったとは思えないような馴染み具合である。
他人の骨を得ると、その骨の持ち主の力を得られる?
そんな疑問が頭に浮かぶ。
ただ答えはどこからも返ってこない。
「……アイテムボックス」
俺はおそるおそるスキルを発動させる。
スキルが使えるなら、このスケルトンの身にも少しは希望が生まれるかもしれない。
空中に伸ばされた俺の手が空間に飲み込まれていく。
「何かが入ってる?」
アイテムをいつでも保管ができて、いつでも取り出せる亜空間を俺は手に入れた。
今スキルを得たばかりの俺のアイテムボックスの中には、何も入っていないはずだった。
なのに、何かがある。
「……ナイフだ」
アイテムボックスの中にあるものを掴んで引きずり出す。
俺の手に掴まれているのはピカピカの刃をしたサバイバルナイフであった。
「あの記憶の男の?」
スケルトンになって初めてのまともな武器。
俺は思わずナイフを見つめ、刃を指でなぞる。
オモチャじゃない。
ちゃんと切れる。
「これなら何とか……なら、ないか……」
興奮はあったが、すぐに冷静になる。
俺の一つの前のぶった斬ってくれた覚醒者の剣を思い出した。
ちゃちなナイフじゃ対抗するのは難しい。
「でもこんなのが俺にお似合いかな」
ただ剣なんて重たいものを振り回せるか、はなはだ疑問なところはある。
細い骨の腕で振り回すならナイフぐらいがちょうどいいのかもしれない。
ほんのちょっとだけど、生き残る希望が見えてきた気がする。




