2不思議な能力1
「……ハァ…………」
自分がスケルトンだと自覚した。
俺は自分がいた廃ビルを中心にして周辺を探索している。
目の前には、デカいネズミのようなモンスター。
まるでトラックぐらいの大きさがあるネズミは俺のことを見下ろしている。
「勘弁してくれよ……」
下から見上げると太い前歯がよく見える。
あんなものでかじられたら、俺の体は耐えられない。
それどころか前足を振られただけでも全身粉々になるだろう。
せめて武器を。
そんなことを思ってすぐ足元にあった石を拾う。
いや、分かってる。
こんなものじゃ戦えない。
「………………あっ」
少し見つめ合う時間があって、ネズミはそっぽを向いて歩き出す。
「……おやつの価値もなかった、か」
緊張の糸が切れて、その場に座り込む。
俺はネズミに見逃されたらしい。
「弱いことが役に立つとはな」
なんの力もない俺はネズミにビビり散らかしたものだが、ネズミは襲ってこなかった。
それは俺が弱いモンスターだからだろう。
なんの意思もなくそこらへんを徘徊するスケルトンは、他のモンスターを襲わない。
能力的にも多くのモンスターの脅威にならない。
つまり他のモンスターがスケルトンを襲う理由がないのだ。
要するに覚醒者の男がしたように、俺はただモンスターにも見逃されたのだった。
「…………うん、やっぱり大丈夫だな」
別のネズミを見つけた。
少し離れたところからあえて姿を見せてみたけれど、ネズミは俺のことを無視した。
少なくともネズミはほっといてくれるみたいだ。
おかげで俺は大手を振って周囲を冒険できることになった。
ネズミに手を出す必要はないし、お互い無視していこう。
「寒さも暑さもないが……裸ってのは落ち着かないな」
モンスターになってしまった理由はいまだに思い出せない。
スケルトンの体は弱いけれど、良い面に目を向ければ意外とメリットもある。
服なんか着ていないけど暑くも寒くもない。
外の気温が全く肌に感じられないけれども、感じられなくとも全く問題ない。
気温だけじゃなく疲れや痛みも感じなくなっている。
床に寝ても平気だし、一日中歩き回っても疲労はなしだ。
現代人の理想みたいな体をしている。
ついでにモンスターにも襲われないんだから、メリットだけ見てればそんなに悪くもないのだった。
何も感じないことに気が狂わないように、前向きに考えなきゃやっていけない。
「あっ」
「あっ!」
ネズミに襲われない。
そのことが俺の油断を誘った。
ふとビルの角を曲がったところで、俺は人に遭遇してしまった。
装備を身につけた四人の男たちがいる。
覚醒者だ!
「スケルトンだ!」
先頭にいた男が剣を抜く。
見えていても反応ができない。
俺はわずかに上半身を逸らすことが精一杯。
肩に剣が当たり、俺の右腕が吹き飛んでいく。
「ヤバい……!」
痛みもないが、腕を喪失したバランスの変化は感じられた。
吹き飛んだ俺の右腕がバラバラになって地面を転がる。
切られた衝撃に俺はフラフラと後ろに下がる。
何が起きたのか、一瞬理解できなかった。
「腕が……」
ダメージは感じていないけれども、失ったものはあまりにも大きすぎる。
人であった俺には、攻撃でも防御でも腕は大切なものだったのに。
死の恐怖に俺の背筋に悪寒が走る。
目の前の覚醒者は俺と違って油断なく、次の攻撃の動作に入っている。
「スケルトンが!」
「逃げたぞ!?」
この体では勝てない。
襲い掛かれ! という本能を振り払って俺は走り出す。
切り飛ばされた腕のことなんかどうでもいい。
今は生きねば。
モンスターとしての本能よりも、俺の人間としての生存本能が上回った。
俺の右腕という名残惜しさも全部かなぐり捨てる。
「どうする?」
「追いかけろ! 逃げるスケルトンなんてやばいだろ!」
ほっといてくれればいいのに、覚醒者たちは俺を追いかけ始めた。
切らせる息もないし、尽きる体力もない。
ただ肉もない。
俺の足はそんなに速く動いてくれない。
このままじゃ追いつかれる。
「ビルに逃げ込んだぞ!」
何もないところを逃げても隠れる場所もない。
こんな時ばかりネズミはいないし、俺は仕方なくビルに飛び込む。
天井が崩れ、やたらと埃っぽいビルの瓦礫を駆け上がった。
二階に登った俺は、さらに非常階段で上に向かう。
「あの変なスケルトンを倒すんだ!」
逃げたせいで追われた。
だからって逃げなきゃ倒されてた。
何にしても攻撃されるのかよと文句を言いたい気分になる。
「くそっ……」
後ろから足音が迫ってくる。
逃げられる体力は無尽蔵なのに、逃げ切る脚力がないことが恨めしい。
奇襲も考えたが、素手で殴りかかったところで一人だって倒せないだろう。
「どうする……! どうしたらいい……!」
ビルの中にも身を隠す場所はない。
「………………あれは!」
焦る俺の目に、死体が見えた。
俺と同じように骨だけになっている。
「これしかないか!」
その死体はボロ切れのような布をまとっている。
俺はボロ切れを乱雑に掴んで奪う。
死体の横に寝転がって切られた腕をボロ切れで覆って隠す。
「どこに行った?」
覚醒者たちの声が聞こえる。
俺は息もしていないのに、息を堪えるように体に力を入れて口を手で押さえる。
無い心臓が飛び出してしまいそうな緊張。
バレたら俺はなすすべもなくやられるしかない。
「まさかこれじゃないよな?」
覚醒者の一人が俺に近づいてくる。
逃げ出したい、そして襲い掛かりたい衝動に抗って、俺はただただ死体を演ずる。
覚醒者が手を伸ばしてくる。
ボロ切れを取られると、先ほど切られたばかりの肩が見えてしまう。
そうなると俺だとバレる。
「おい、何してるんだ?」
「いや、ここに白骨死体があるから……」
「スケルトンならそんなに近づけば動くだろ?」
「確かにそうか」
指先がボロ切れに触れている。
しかし仲間の言葉に覚醒者は腕を引っ込める。
冒険者たちが上の階を捜索に行く。
それでも俺は動かなかった。
いや、動けなかった。




