第19話 皇帝の招請
帝都。
空気が変わる。
目に見えない圧力。
統治の中心。
帝国の頂点。
その意思が動いた。
「……来ました」
レオニードが静かに言う。
「何がですの?」
「皇帝陛下より、謁見の申し出でございます」
◇
「……そうですの」
アリアベルは特に驚かない。
「はい」
一拍。
「正式な国賓級の招請でございます」
「断ることもできますの?」
「可能でございます」
一拍。
「ただし」
「帝国全体に影響が出ます」
◇
「……難しいですわね」
アリアベルは小さく笑う。
そして。
「では、行きましょうか」
即決だった。
「承知いたしました」
◇
帝城。
巨大な建造物。
公国とは異なる様式。
威圧的な美。
支配の象徴。
「……大きいですわね」
「はい」
レオニードが答える。
「帝国の権威を示す構造です」
◇
大広間。
赤い絨毯。
整列する貴族。
沈黙。
そして。
玉座。
そこに座る存在。
皇帝。
◇
「……来たか」
低い声。
静かだが、重い。
空間そのものを支配する声。
◇
「お初にお目にかかります」
レオニードが一礼する。
だが。
アリアベルは。
「……初めましてですわね」
自然に言う。
上下の意識はない。
◇
「……なるほど」
皇帝が小さく呟く。
「確かに、そういう存在か」
◇
「本日は、何かご用件が?」
アリアベルが問う。
遠慮はない。
◇
「単純な話だ」
皇帝は静かに言う。
「確認したかった」
「……何をですの?」
「お前が、本当に“それ”なのか」
◇
「……難しいですわね」
アリアベルは少し考える。
「何をもって“それ”とするのかが、分かりませんもの」
◇
「……ふっ」
皇帝がわずかに笑う。
「そうか」
一拍。
「ならば良い」
◇
「……それでよろしいのですか」
レオニードが静かに問う。
◇
「問題ない」
皇帝は即答する。
「確認は終わった」
◇
沈黙。
だが。
その空気は、すでに決まっている。
◇
「……もう一つ」
皇帝が言う。
「何かしら」
「帝国の料理は、どうだった」
◇
「……美味しかったですわ」
アリアベルは素直に答える。
「そうか」
一拍。
「最高か」
◇
「ええ」
アリアベルは頷く。
「帝国最高のレストランですわ」
◇
その瞬間。
玉座の空気が、わずかに揺れる。
◇
「……そうか」
皇帝は静かに頷く。
「ならば良い」
◇
評価が確定した。
帝国の誇り。
帝国の頂点。
それが、認められた。
◇
「……ただし」
アリアベルが続ける。
「“一番好き”とは違いますわね」
◇
沈黙。
貴族たちの空気が凍る。
◇
「……面白い」
皇帝が低く笑う。
「実に、面白い」
◇
「評価と、感情は別」
アリアベルは自然に言う。
「……なるほど」
皇帝が頷く。
「理解した」
◇
「……では」
アリアベルが振り返る。
「これでよろしいかしら」
「構わん」
皇帝は即答する。
「むしろ、満足だ」
◇
その日。
帝国の頂点と。
神格存在が。
交差した。
だが。
戦いではない。
確認でもない。
ただの対話。
◇
少女は去る。
何も変えないまま。
だが。
すべてを変えながら。




