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八上の三魂  作者: 双鶴


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第二十七話 訃報の風

安土へ向かった波多野秀治・波多野秀尚が、

和睦の場で処断された――


その報せが八上城に届いたのは、

冷たい風が山を渡る夕刻だった。


使者は泥にまみれ、

息を切らしながら城門へ駆け込んだ。


「急報!

 安土にて……

 秀治様と秀尚様が……!」


秀香はその声を聞いた瞬間、

胸の奥が凍りついた。


「……どういうことだ」


使者は震える声で続けた。


「和睦は……破られました。

 織田信長の命により、

 お二人は……磔に……」


評定の間にいた家臣たちが、

一斉に息を呑んだ。


「そんな……!」


「和睦ではなかったのか……!」


秀香はゆっくりと立ち上がり、

使者に歩み寄った。


「秀治兄上と秀尚兄上は……

 最期、何か言葉を残されたか」


使者は涙をこらえながら答えた。


「……秀治様は、

 “秀香に八上を頼む”と……

 秀尚様は、

 “兄上と共に”と……」


秀香は目を閉じた。


胸の奥に、

熱いものが込み上げてくる。


だが涙は落ちない。


落とせなかった。


――秀治兄上。

――秀尚兄上。


家臣の一人が声を震わせた。


「秀香様……

 我らは……どうすれば……」


秀香は静かに目を開けた。


その瞳には、

深い悲しみと、

それ以上の強い光が宿っていた。


「……兄上たちは、

 八上を守るために死んだ」


「……」


「ならば我らは、

 八上を捨てるわけにはいかぬ」


家臣たちは息を呑んだ。


秀香はゆっくりと拳を握りしめた。


「明智は、必ず来る。

 兄上たちを殺した以上、

 波多野を潰しにかかる」


「……!」


「ならば――

 我らは戦うしかない」


その声は静かだったが、

誰よりも強かった。


夕暮れの光が差し込む中、

秀香はただ一人、

空を見上げた。


その目には涙はなかった。


涙の代わりに、

燃えるような決意が宿っていた。


――兄上。

 私は、必ず報います。


その誓いは、

八上の山々に静かに響いた。


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