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八上の三魂  作者: 双鶴


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第二十六話 破られた和睦

安土城の中庭には、

朝の光が冷たく差し込んでいた。


波多野秀治と波多野秀尚は、

縄で縛られたまま、広場の中央へと連れて行かれた。


秀治は静かに空を見上げた。


「……よい天気だな、秀尚」


秀尚は苦笑した。


「兄上。

 こんな時に、よくそんなことを……」


「最後くらい、晴れた空を見たいものだ」


二人のやり取りを、

明智が遠くから見つめていた。


その表情には、

深い苦悩が滲んでいた。


やがて、信長が姿を現した。


その歩みは静かだが、

周囲の空気を一瞬で支配する威圧感があった。


秀治と秀尚は、

膝をついたまま深く頭を下げた。


信長は二人を見下ろし、

冷たく言い放った。


「――和睦は破棄する」


広場がざわめく。


秀尚が顔を上げた。


「信長公……!

 我らは、明智と結んだ和睦を……!」


信長は一歩も揺らがなかった。


「戦に敗れた者が、

 己の都合で和睦を語ることなどできぬ。

 八上は織田に刃向かった。

 その罪、軽くはない」


秀治は静かに言った。


「……覚悟は、できております」


信長はわずかに目を細めた。


「民のために死ぬ覚悟か。

 ならば――死ね」


その言葉と同時に、

武士たちが二人を磔柱へと引き立てた。


秀尚は振り返り、

明智を見つめた。


「明智殿……

 八上を……頼みます」


明智は唇を噛み、

声を絞り出した。


「……すまぬ」


秀治は柱に縛られながら、

最後に空を見上げた。


「秀香……

 八上を……頼んだぞ」


信長が手を振り下ろす。


「――やれ」


槍が一斉に牙を剥いた。


突き刺さる音が鈍く静かに広場に響く。


波多野秀治と波多野秀尚の身体に、

次々と槍が突き刺さった。


秀治は最後まで、

声を上げなかった。


秀尚は兄の名を呼ぼうとしたが、

その声は血に溶けて消えた。


やがて、

二人の身体は力を失い、

静かに項垂れた。


信長は背を向け、

冷たく言い捨てた。


「これで丹波は織田家のものとなる」


明智はその場に立ち尽くし、

拳を震わせていた。


「……波多野。

 そなたらの死、無駄にはせぬ」


だがその言葉は、

安土の空に虚しく消えていった。


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