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八上の三魂  作者: 双鶴


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第二十三話 露わになる本心

和睦の話が八上城を揺らしてから数日。

その日の朝、南の谷から再び使者が現れた。


「明智方より、追加の書状です!」


評定の間に緊張が走る。


秀治は書状を受け取り、封を切った。

だが、その表情がみるみる険しくなる。


「……これは……」


秀尚が覗き込む。


「兄上、何が……?」


秀治は震える声で読み上げた。


「“和睦の証として、八上の殿お二人には安土へお越しいただきたい”」


家臣たちがざわめく。


「安土……!」


「それは……人質では……?」


秀尚の顔色が変わる。


「兄上……

 これは……和睦ではなく……」


その時、秀香が静かに言った。


「――兄上。

 これが“明智の本心”です」


評定の間が静まり返る。


秀香は書状を指し示し、淡々と続けた。


「明智は、兄上たちを安土へ呼び寄せるつもりです。

 和睦の名を借りた“拘束”です」


秀治は苦しげに言った。


「だが……

 母を人質に出すと言っていた……」


「兄上。

 その話は“最初の餌”です」


秀香の声は静かだったが、

その言葉は鋭く、重かった。


「最初に甘い言葉を与え、

 次に“条件”を積み重ね、

 最後に逃げ道を塞ぐ。

 これは明智の常套手段です」


家臣たちが息を呑む。


秀尚は震える声で言った。


「では……

 我らが安土へ行けば……?」


秀香は迷いなく答えた。


「帰れません。

 兄上たちは“処断”されます」


評定の間が凍りつく。


秀治は目を閉じ、

長い沈黙の後、静かに言った。


「……秀香。

 お前は、明智が我らを殺すと断言するのか?」


「はい。

 八上を滅ぼすためなら、

 明智はどんな策でも使います」


秀尚は目を伏せた。


「だが……

 戦えば民が死ぬ。

 和睦すれば、救われるかもしれない」


秀香は兄たちをまっすぐに見つめた。


「兄上。

 “かもしれない”に八上の命運を賭けるのですか?」


秀治は答えられなかった。


秀香は続けた。


「明智は、八上を許しません。

 和睦は、八上の滅びです」


その言葉は、

評定の間に重く沈んだ。


だが――

兄たちの目には、まだ迷いが残っていた。


秀治は震える声で言った。


「……秀香。

 私は……民を守りたい。

 それが八上の主としての務めだ」


秀尚も同じ思いだった。


「兄上の言う通りだ。

 民がこれ以上苦しむ前に……

 和睦を考えるべきだ」


秀香は息を呑んだ。


――兄上たちは、もう戦う覚悟を失っている。


その現実が、

胸に深く突き刺さった。


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