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八上の三魂  作者: 双鶴


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第十九話 断たれる策

八上城の外では光秀軍の包囲が狭まり、

城内では疲弊が広がっていた。


そして――

兄たちの心もまた、静かに削られていた。


評定の間には、重い空気が漂っていた。


秀治は地図を前にしていたが、

その目には迷いが宿っていた。


「……明智の包囲は、日に日に強まっている。

 だが、八上は山城だ。

 守り抜けば、まだ……」


その言葉は弱々しく、

かつての太陽のような力強さはなかった。


秀尚も続ける。


「兄上の言う通りです。

 兵も民も疲れている。

 今、攻勢に出れば……犠牲が出ます」


家臣たちも、兄たちの言葉に縋るようにうなずいた。


「守りを固めれば……」


「八上は不落の城……」


その空気を断ち切るように、

秀香が静かに口を開いた。


「――兄上。

 八上は、このままでは滅びます」


評定の間が凍りつく。


秀治が顔を上げた。


「……秀香。

 またその話か」


「はい。

 明智は包囲を完成させつつあります。

 兵糧は減り、民は疲れ、

 このままでは“待つほど不利”になります」


秀尚が苦い表情で言う。


「だが……

 攻勢に出れば、兵が死ぬ。

 民も怯える。

 それでは……」


秀香は迷いなく言った。


「犠牲は避けられません。

 ですが――

 “動かずに滅ぶ”より、

 “動いて道を切り開く”方がまだ生き残れます」


家臣たちがざわめく。


秀治は拳を握りしめた。


「……では、どう動く?」


秀香は地図の上に手を置き、

明確な策を示した。


「南の谷に築かれた明智の陣を夜襲します。

 敵は包囲を広げるために兵を分散している。

 今なら、局地戦で勝てます」


家臣たちが息を呑む。


「夜襲……!」


「この状況で……!」


秀治はしばし沈黙し、

やがて静かに言った。


「……秀香。

 お前の策は理にかなっている。

 だが……

 今の八上には、もう“攻める力”が残っていない」


秀香の目が揺れる。


秀尚も続けた。


「兵は疲れ、民は怯えている。

 ここで攻勢に出れば、

 八上は“戦う前に崩れる”かもしれない」


家臣たちも兄たちに同調する。


「秀香様……

 今は耐える時かと……」


「攻勢は危険すぎます……」


秀香は、初めて“孤立”を感じた。


兄たちも、家臣たちも、

誰一人として自分の策を支持しない。


秀治は静かに言った。


「秀香。

 お前の気持ちは分かる。

 だが……

 八上は“民の城”だ。

 民を守るために、無理な戦はできぬ」


秀香は唇を噛んだ。


――民のため。

――その言葉が、兄上たちを縛っている。


「……分かりました」


秀香は深く頭を下げたが、

その声は震えていた。


「ですが兄上。

 このままでは、八上は……」


秀治はその言葉を遮った。


「秀香。

 我らは“守る”道を選ぶ。

 それが八上の光だ」


秀香は何も言えなかった。


評定の間に、

重く、苦しい沈黙が落ちた。


――兄上たちは、もう戦えない。

――八上は、静かに滅びへ向かっている。


秀香はその現実を、

誰よりも早く悟っていた。


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