第十八話 城内に満ちる疲弊
光秀軍が八上の周囲に陣を築いてから十日。
城外の包囲線は日に日に狭まり、
城内では別の“戦”が始まっていた。
それは――疲弊との戦いだった。
「水汲み場までの道が危険になってきました……!」
「負傷兵が増えております!」
城下から上がってくる声は、
どれも重く、暗い。
秀治は天守から城下を見下ろし、
深く息を吐いた。
「……皆、疲れているな」
秀尚も沈んだ表情で言う。
「兄上。
兵たちは夜襲を恐れて眠れず、
民は包囲の気配に怯えています。
このままでは……」
秀治は目を伏せた。
「八上は……守り抜けるのだろうか」
その言葉は、
これまで決して口にしなかった“弱音”だった。
家臣たちが顔を見合わせる。
その時、秀香が静かに入ってきた。
「兄上。
城内の状況を報告します」
秀治は顔を上げたが、
その目には迷いが宿っていた。
秀香は淡々と続けた。
「兵の疲労は深刻です。
民の不安も増しています。
ですが――
まだ戦えます」
秀尚が驚いたように言う。
「秀香……この状況で、まだ……?」
「はい。
兵は疲れていますが、士気は落ちていません。
民も、兄上たちが揺らがなければ踏ん張れます」
秀治は息を呑んだ。
「……我らが揺らげば、皆が崩れるということか」
「はい。
八上の光は、兄上たちです。
その光が弱れば、城は闇に沈みます」
家臣たちが静まり返る。
秀尚は苦い表情で言った。
「だが……
この疲弊が続けば、いずれ限界が来る」
秀香はうなずいた。
「だからこそ、動かねばなりません。
光秀の包囲が完成する前に」
秀治は答えられなかった。
城内の疲弊は、
兄たちの心を確実に蝕んでいた。
秀香はその背中を見つめながら、
胸の奥に静かな焦りを覚えていた。
――八上の光が揺らいでいる。
――このままでは、兄上たちは決断を誤る。
その予感は、
すでに現実へと近づいていた。




