第十七話 包囲の影、迫る
秀香が「持久戦は不利」と諫言してから数日。
八上城の周囲は、静かだが不穏な空気に包まれていた。
「明智の斥候、再び北の谷に現れました!」
「南の山道でも、敵の足跡が……!」
見張り台からの報告が相次ぐ。
秀治は天守で地図を見つめ、
眉間に深い皺を刻んだ。
「……明智は、八上の周囲を探っているのだな」
秀尚がうなずく。
「兄上。
前回のように大軍で押し寄せるのではなく、
今回は“包囲の準備”をしているように見えます」
秀治は息を呑んだ。
「つまり……秀香の言った通りか」
その時、秀香が静かに入ってきた。
「兄上。
明智は、八上を完全に孤立させるつもりです。
周囲の城を拠点に、包囲網を狭めている」
秀尚が不安げに問う。
「秀香……明智は、いつ動く?」
秀香は迷いなく答えた。
「――近いです。
斥候の動きが増え、
山道の偵察が頻繁になっている。
これは“包囲前の地ならし”です」
家臣たちがざわめく。
「では、いよいよ……」
「八上が標的に……!」
秀治は深く息を吸い、弟を見つめた。
「秀香。
お前の策――攻勢に出るという案、
評定で改めて聞かせてくれ」
秀香は静かにうなずいた。
「はい。
光秀が包囲を完成させる前に、
こちらが動かねばなりません」
その時――
山の向こうから、低く重い法螺貝の音が響いた。
「報告!
明智の軍勢、南の谷に大規模な陣を築き始めました!」
評定の間に緊張が走る。
秀香は静かに言った。
「……明智が来ました。
第二次丹波攻めの幕が上がります」
八上城の上空に、
確かな“包囲の影”が迫っていた。




