第93話『あったかい朝』
リビング。
瑠美が、少しだけ緊張した顔で頭を下げた。
「おはようございます……」
「おはよう」
星羅の父が、にこっと笑う。
「よく眠れたかい?」
「は、はい」
瑠美は、ぺこりと頭を下げた。
「昨晩は遅くまで、お騒がせしてしまって……申し訳ございませんでした……」
「なーも、なーも」
星羅の母が、楽しそうに手を振る。
「うちの蓮が、瑠美ちゃんに“ほの字”なんだべさ〜」
「悪いのは蓮よ〜」
「なっ……参ったな……」
蓮が頭を掻きながら笑う。
「瑠美、ごめんだべ〜」
そう言って手を合わせたあと。
瑠美にだけ見えるように、小さくウィンクした。
「……ふふっ」
瑠美は、少しだけ肩の力を抜いた。
「私も楽しかったです」
「さっ、瑠美ちゃん座るべ〜」
星羅の母が、湯気の立つ椀を差し出す。
「しじみ汁、二日酔いに一番だべさ」
「あぁ〜……」
瑠美は、椀を両手で包んだ。
「私達も若い頃、よく飲んでたよねぇ」
「ねっ、お父さん」
「そうだったべさなぁ」
顔を見合わせる二人。
「「アハハハ」」
食卓が、温かい笑い声に包まれる。
瑠美は、しじみ汁をひと口飲んだ。
「あー……しじみが身体に染みるぅ〜」
「お母さん、とても美味しいです」
「後で作り方教えてください」
「あら〜」
星羅の母が、嬉しそうに笑う。
「なんだか、お嫁さんが来たみたいだべさ」
「本当だべなぁ」
星羅の父も、うんうん頷く。
「瑠美ちゃん、蓮と仲良くしてやってな」
「「いや、あの……」」
二人同時だった。
ぴたりと重なった声。
そして。
顔も、同時に真っ赤になる。
その様子に、星羅の母が吹き出した。
「息ぴったりだべさ〜!」
「やめれ母ちゃん……」
蓮が頭を抱える。
また、食卓に笑い声が広がった。
「ごちそうさまでした」
瑠美が、ふぅと息を吐く。
「焼き鮭も、とても美味しかったです」
「それは良かったべ〜」
星羅の母が、にこにこ笑う。
「今夜はジンギスカンだよ」
「それまで、蓮とデートにでも行ってきたらいいべさ」
「それがいい」
星羅の父も頷いた。
「瑛太くんは、星羅が健気に看病してるし……な」
父と母が、ちらっと目を合わせる。
「あっ、そっとしておいた方がいいべさ」
「ありゃ完全に、二人の世界だべ」
「だべ」
「ワハハ!」
「ふふふっ」
蓮が、小さく笑いながら立ち上がった。
「じゃあ、僕達も出かけようか?」
「うん」
瑠美も、嬉しそうに笑う。
「その前に、星羅へLIMUだけ送っておくね」
その頃。
和室。
「ふー……美味しかった」
瑛太が、ほっと息を吐く。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうな、星羅」
「うん」
星羅が、にこっと笑った。
そして。
そっと、瑛太のおでこへ手を当てる。
「……やっぱり熱あるね」
「今日は一日、ちゃんと寝てないとだめだべ」
「はい、薬」
「うん……ありがとう」
瑛太が薬を飲むのを見届けると、星羅は布団を持ち上げた。
「ほら、横になって」
「はいはい」
瑛太が布団へ入る。
その姿を見ながら。
星羅が、ふっと笑った。
「そう言えば、昔」
「私が熱出した時、瑛太が看病してくれたね」
「あー……あったな」
瑛太が、少し懐かしそうに笑う。
「玄関から出てきたと思ったら、倒れて」
「慌てて抱きかかえたわ」
「ふふっ……」
星羅が、小さく目を細める。
「とても温かくて、優しい腕だったよ」
「……あの時は、ありがとうね」
瑛太は、少しだけ照れたように頭を掻いた。
「こちらこそ、ありがとう」
「うん」
星羅が、優しく頷く。
そして。
ちゅっ。
瑛太の頬へ、軽くキスをした。
「じゃあね」
「何かあったら、LIMUして」
「う、うん……」
ぱたん。
静かに襖が閉まる。
和室に残るのは、ストーブの音だけ。
瑛太は、布団へ顔をうずめた。
熱のせいか。
それとも別の理由か。
胸が、ずっとあったかかった。




