第84話『あったかい家』
「さ、入って入って」
蓮に促され、
瑛太達は玄関へ足を踏み入れた。
その瞬間。
「……あっつ」
瑛太が思わず声を漏らす。
コートを脱ぎながら、
額を拭った。
「え、北海道って寒いんちゃうん?」
「外は寒いべ」
蓮がけろっと答える。
見ると。
蓮はTシャツに短パンだった。
「いや、家の中もう夏やないですか」
「北海道の家は暖かいんだべさ」
星羅が靴を脱ぎながら笑う。
その声は、どこか柔らかかった。
東京で聞く声より、
少しだけ幼い感じがした。
「瑛太くん、もし良かったら服貸そうか?」
「え、いいんですか?」
「うん。このままだと汗だくなるべ」
「ありがとうございます」
瑛太は頭を下げた。
「じゃ、こっち」
蓮に案内され、
廊下の奥へ向かう。
その後ろ姿を見ながら。
「じゃあ島原さん、私の服着ます?」
星羅が振り返る。
「いえ、私はまだご挨拶がありますので……」
「汗だくスーツで説明するん?」
「……」
「ほら、こっちだべ」
ぐいぐい袖を引かれ、
島原が小さく苦笑した。
「では、お言葉に甘えようかしら」
*
数分後。
「お兄さんありがとうございます、すずしい〜」
瑛太が、借りたTシャツ姿でソファへ座る。
「なんか、瑛太くんが着ると同じ服なのにモデルさんが着たみたいになるべ……」
蓮が不思議そうに首を傾げた。
「いや、お兄さんぴったりですよ」
瑛太が苦笑する。
「逆に動きやすいです」
「逆に……?」
「いや、あの……」
その時。
「お兄ちゃん、瑛太はお兄ちゃんと違って手足長いの」
星羅が真顔で言った。
「仕方ないでしょ」
「うっ……」
蓮が小さくダメージを受ける。
その時だった。
「お待たせしましたー」
島原の声。
全員が振り返る。
そして。
「……」
空気が止まった。
島原は、
星羅のTシャツに短パン姿だった。
ただし。
胸元だけは、
全然ぴったりじゃなかった。
そして、
お腹が少しだけ見えている。
「島原さん……」
蓮が固まる。
顔がみるみる赤くなった。
「ちょ、ちょっとそれは……」
「え?」
島原が首を傾げる。
「似合いません?」
「似合うとかじゃなくてですね……!」
慌てる蓮。
星羅はきょとんとしたまま言った。
「可愛いべ?」
「ちょっと島原さんのお胸が大きいだけだべさ」
「星羅ぁ!?」
蓮が立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待っててください!」
そのまま慌てて部屋へ消えた。
数秒後。
戻ってきた蓮は、
新しいTシャツを差し出した。
「こ、これ着てください」
「僕が買って、まだ着てないやつです」
花柄のTシャツだった。
「あら」
島原が受け取る。
「ありがとうございます、お兄さん」
にこっ。
「……いえ」
蓮が視線を逸らす。
耳まで真っ赤だった。
その様子を見て。
瑛太と星羅が、
同時に吹き出す。
「ぷっ」
「ふふっ」
「お兄ちゃん、分かりやすすぎない?」
「だよね」
星羅が楽しそうに笑う。
その笑顔を見ながら。
島原は、
小さく息を吐いた。
そして。
「……さて」
少しだけ、
仕事の顔へ戻る。
「落ち着いたところで、ご両親にお話がございます」
リビングの空気が、
静かに切り替わった。




