表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
76/87

第75話 『眠れない夜』

浴室の扉が閉まった瞬間。

星羅はソファーに顔を埋めた。

「…………」

「……何やってるんだべ、私……」

耳が熱い。

心臓がうるさい。

さっきの会話……

『一緒に入る?』

『なんちゃって』

瑛太の笑顔。

そのあと……

自分は、 何て返した?

「……うん」

「うぅぅ……言っちまっただぁ」

ソファへ顔を埋め、 バタバタする。

顔が熱かった。

でも……

嬉しかっただ……

照れ隠しでも、 一緒に入るって言葉……

嬉しかった。

半分は…… 本気だった……

シャワーの音が聞こえる。

さっきまで、 自分が入っていた場所。

今は、 瑛太がいる。

「…………」

意識した瞬間、 また心臓が跳ねた。

落ち着かない。

夜景を見ようとして、 窓へ視線を向ける。

札幌の街が、 静かに光っていた。

綺麗だった。

でも今は。

それより。

頭の中が、 瑛太でいっぱいだった。

「……だめだべ」

小さく呟く。

そのとき。

ガチャ。

浴室の扉が開いた。

「ふぅ〜……」

瑛太が、 タオルで髪を拭きながら出てくる。

そして。

止まった。

「…………」

「…………」

目が合う。

二人とも、 一瞬固まる。

瑛太は、 慌てて視線を逸らした。

「お、おう……」

「……おうって何だべ」

星羅が、 思わず吹き出す。

「いや、何か…… さっきの流れのあと、 どう出て行ったらええのか、 わからへんようになって……」

瑛太は、 頭をポリポリかいてる。

「ふふっ……」

星羅が笑う。

その笑顔を見て、 瑛太も少しだけ力が抜けた。

「足、大丈夫か?」

「うん。平気」

「湿布は?」

「しただよ」

「なら良かったべ」

「あー、瑛太真似したべ」

「あはは、ごめんごめん」

会話は普通。

なのに。

どこか、 普通じゃない。

さっきまでの空気が、 まだ残っていた。

ベッドは、 一つだった。

「…………」

「…………」

二人同時に見る。

そして、 同時に逸らす。

「……いや、まぁ」 瑛太が咳払いした。

「広いし?」

「……うん」

「端と端なら、 たぶん大丈夫やし?」

「……何が?」

「知らん!!」

瑛太が、 一人で赤くなる。

星羅は、 堪えきれず笑った。

部屋の灯りを落とす。

夜景だけが、 静かに部屋を照らしていた。

ベッドへ入る。

距離は、 ちゃんと空いている。

それなのに。

近い。

「…………」

眠れない。

隣に、 瑛太がいる。

それだけで、 変に意識してしまう。

「……瑛太」

「ん……?」

少し眠そうな声。

「起きてた?」

「寝れるわけないやろ……」

「ふふっ……一緒だ」

静かな笑い声。

そのあと。

また、 少し沈黙が落ちた。

窓の外では、 雪がゆっくり降っていた。

「……ねぇ」

「ん?」

「今日、楽しかったね」

「……おう」

瑛太が、 小さく笑う。

「北海道来てから、 めっちゃ楽しいわ」

その言葉に。

星羅の胸が、 少しだけ熱くなる。

「……私も」

小さく返す。

それだけなのに。

どうしてか、 泣きそうになるぐらい嬉しかった。

「…………」

静かな夜。

眠れないまま。

時間だけが、 ゆっくり流れていく。

そのとき。

「……寒ない?」

瑛太が、 小さく呟いた。

「……ちょっとだけ」

「暖房つける?」

「……ううん」

星羅は、 少しだけ迷う。

それから。

ゆっくり。

瑛太の方へ近づいた。

「…………」

ベッドが、 少しだけ揺れる。

瑛太が固まる。

星羅は、 そのまま。

そっと、 瑛太へ抱きついた。

「せ、星羅……?」

「……ちょっとだけ」

声が小さい。

「この方が…… あったかいから」

「…………」

瑛太の心臓が、 また大きく跳ねる。

でも。

振り払いたくなかった。

むしろ。

離したくなかった。

恐る恐る。

瑛太の手が、 星羅の背中へ触れる。

抱きしめる。

宝物みたいに。

「…………」

顔が近い。

呼吸が触れそうだった。

星羅が、 そっと目を閉じる。

瑛太も、 小さく息を飲んだ。

大事すぎて。

もう、 止まれそうになかった。

重なった鼓動が、 少しずつ境界を溶かしていく。

友達とも、 相方とも違う。

名前をつけるには、 まだ少しだけ不器用なまま。

それでも。

この夜を境に、 二人の想いは、 もう戻れないところまで来ていた。

窓の向こう。

札幌の夜景が、 静かに滲んでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ