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第63話 『行けなかった理由』
信号が変わる。
青。
人の流れが、一斉に動き出す。
「……」
瑛太は、その中に入れなかった。
さっきと同じ場所。
同じ交差点。
足だけが、止まっている。
「……」
ひとつ、息を吐く。
(行かなあかんやろ)
頭では、分かっている。
アルデンテ。
窓際の席。
きっと、いる。
「……」
ポケットからスマホを取り出す。
画面。
トーク。
星羅。
何も、打っていない。
指が、少しだけ動く。
止まる。
そのまま、画面を閉じた。
「……はぁ」
小さく、息が漏れる。
あの日のことが、頭をよぎる。
ドアの前。
近すぎた距離。
「……」
目を閉じる。
(なんで止まったんやろな)
答えは、分かっている。
でも。
認めたくない。
信号が、また変わる。
青。
人が流れる。
それでも。
足は、動かない。
「……」
ポケットの中。
鍵に触れる。
ぎゅっと、握る。
「……やっぱ、行けへんわ」
一歩、出る。
止まる。
「……」
顔を上げる。
アルデンテの方向。
そのまま、視線を逸らす。
踵を返す。
逆方向へ。
歩き出す。
少しだけ、早足で。
逃げるみたいに。
ポケットの中で、スマホが震える。
止まる。
取り出す。
画面を見る。
違う。
広告。
「……」
小さく、息を吐く。
昼の光が、少しだけ眩しい。
「……無理やわ」
視線を、落とす。
その足は、最後まで。
アルデンテの方には、向かなかった。




