第57話:止まらなかった夜
配信が終わる。
カメラのランプが消える。
部屋が、少しだけ静かになる。
「……疲れたな」
瑛太がソファに体を預ける。
「……お疲れさま」
星羅も隣で息を吐く。
同じ場所にいるのに、
少しだけ距離がある気がした。
「……なんか」
星羅が小さくこぼす。
「いつもと違ったね」
「……せやな」
瑛太が少しだけ笑う。
「お前が来るからや」
「……そう?」
「そうや」
短いやり取り。
でも。
言葉が、続かない。
昼の距離。
さっきの距離。
まだ、残っている。
星羅「今日は勝手に来たのに、出させてくれて、ありがとう」
「たのしかった」
瑛太「おう……まぁええけど」
「次からは、LIMEぐらいして来いよ」
苦笑いが混ざる。
星羅「うん」
少しだけ視線が落ちる。
星羅「……今日は、帰るね」
瑛太「……そやな」
「また明日な」
星羅「うん……」
星羅が立ち上がる。
ドアの方へ歩く。
ドアの前で、星羅の足が止まる。
振り返る。
瑛太と、目が合う。
星羅の唇が、わずかに動く。
言いかけて。
やめる。
「……なんでもない」
ドアに手をかける。
(……止めたら)
一瞬、よぎる。
(……今なら、まだ)
瑛太の足が、わずかに動く。
止まる。
喉が詰まる。
言葉が、出てこない。
ここで止めたら、戻られへん気がした。
(……このままじゃ、あかん気がした)
星羅が、小さく息を吐く。
(……なんで)
「……おやすみ」
ドアが閉まる。
音が、残る。
瑛太は、そのまま立ったまま。
何も言えないまま、時間だけが過ぎる。
やがて、ソファに座る。
「……」
言葉は、最後まで出てこなかった。




