表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/58

第54話:ちゃんと、言う

夕方。

川沿いの道。

水面が、やわらかく光を揺らしている。

「……」

並んで歩く。

さっきまでと、同じ距離。

でも――

少しだけ、意識してしまう距離。

風が、吹く。

春の匂い。

「……なあ」

瑛太が、ぽつり。

「ん?」

星羅が、横を見る。

「……さっきの話やねんけど」

言葉を探す。

でも、止めない。

「……うん」

星羅は、急かさない。

そのまま、待つ。

「……あれな」

小さく息を吐く。

「ごまかされへん気ぃしてきた」

立ち止まる。

星羅も、止まる。

水の音だけが、流れる。

「……俺な」

少しだけ視線を落とす。

でも、逸らさない。

「星羅とおると」

一つずつ。

言葉を置く。

「楽しいし」

「安心するし」

「……それだけやったら、よかったんやけど」

少しだけ、笑う。

「もう、それだけや無くなってる…」

顔を上げる。

まっすぐに、見る。

「……俺」

迷わない。

「星羅のこと、好きや」

静かに、落ちる。

風が、止まったみたいに。

「……」

星羅は、すぐには答えない。

少しだけ、息を吸う。

「……うん」

小さく、頷く。

「知ってた」

ほんの少しだけ、笑う。

「……やろな」

瑛太も、少しだけ笑う。

でも――

そこで終わらない。

「……でもな」

続ける。

「漫才も、手放す気ない」

はっきりと。

「どっちも、ちゃんとやりたい」

「……わがままなん、わかってる」

少しだけ、息を吐く。

「それでもええなら――」

言い切る前に。

星羅が、一歩、近づく。

「いいよ」

迷いなく。

「……え?」

瑛太が、少しだけ目を見開く。

「だって」

少しだけ照れながら。

でも、逃げない。

「私も、同じだから」

ほんの少しだけ、間。

「……好きだよ」

静かに。

でも、はっきり。

空気が、変わる。

完全に。

「……」

瑛太は、言葉が出ない。

ただ、見てる。

星羅を。

「……」

そのまま。

少しだけ、時間が流れる。

星羅が、ふっと笑う。

「なんか……瑛太、変わったね」

瑛太「……そうか?」

星羅「うん。なんか、初めて会った時と雰囲気ちがう」

瑛太「そうかな……」

頭をかく。

星羅「あっ、それ、久しぶりに見た」

くすっと、笑う。

「……」

その顔。

その笑い方。

最初に見たときと、変わってない。

「……なあ」

ぽつり。

星羅が、こっちを見る。

「ん?」

「……たぶんな」

少しだけ、息を吐く。

「俺」

視線を外さずに。

「星羅が笑ってるとこ、見て――」

一瞬。

でも、止めない。

「好きになったんやと思う」

静かに、落ちる。

「……」

星羅は、何も言わない。

でも。

少しだけ、目がやわらぐ。

「……でな」

続ける。

「さっき、改めて思ったわ」

ほんの少しだけ、笑う。

「……今もやわ」

短く。

でも、逃げない。

「まだ、好きになってる途中や」

「……」

星羅が、少しだけ笑う。

その笑顔。

さっきより、近い。

「……じゃあ」

小さく。

「これから、もっと好きになるね」

いたずらっぽく。

でも、まっすぐ。

「……望むとこや」

瑛太も、笑う。

今度は、ちゃんと笑顔


「……行こか」

「うん」

また、並んで歩き出す。

さっきと同じ道。

同じ距離。

でも――

もう、同じじゃない。

二人の関係だけが、

変わっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ