第54話:ちゃんと、言う
夕方。
川沿いの道。
水面が、やわらかく光を揺らしている。
「……」
並んで歩く。
さっきまでと、同じ距離。
でも――
少しだけ、意識してしまう距離。
風が、吹く。
春の匂い。
「……なあ」
瑛太が、ぽつり。
「ん?」
星羅が、横を見る。
「……さっきの話やねんけど」
言葉を探す。
でも、止めない。
「……うん」
星羅は、急かさない。
そのまま、待つ。
「……あれな」
小さく息を吐く。
「ごまかされへん気ぃしてきた」
立ち止まる。
星羅も、止まる。
水の音だけが、流れる。
「……俺な」
少しだけ視線を落とす。
でも、逸らさない。
「星羅とおると」
一つずつ。
言葉を置く。
「楽しいし」
「安心するし」
「……それだけやったら、よかったんやけど」
少しだけ、笑う。
「もう、それだけや無くなってる…」
顔を上げる。
まっすぐに、見る。
「……俺」
迷わない。
「星羅のこと、好きや」
静かに、落ちる。
風が、止まったみたいに。
「……」
星羅は、すぐには答えない。
少しだけ、息を吸う。
「……うん」
小さく、頷く。
「知ってた」
ほんの少しだけ、笑う。
「……やろな」
瑛太も、少しだけ笑う。
でも――
そこで終わらない。
「……でもな」
続ける。
「漫才も、手放す気ない」
はっきりと。
「どっちも、ちゃんとやりたい」
「……わがままなん、わかってる」
少しだけ、息を吐く。
「それでもええなら――」
言い切る前に。
星羅が、一歩、近づく。
「いいよ」
迷いなく。
「……え?」
瑛太が、少しだけ目を見開く。
「だって」
少しだけ照れながら。
でも、逃げない。
「私も、同じだから」
ほんの少しだけ、間。
「……好きだよ」
静かに。
でも、はっきり。
空気が、変わる。
完全に。
「……」
瑛太は、言葉が出ない。
ただ、見てる。
星羅を。
「……」
そのまま。
少しだけ、時間が流れる。
星羅が、ふっと笑う。
「なんか……瑛太、変わったね」
瑛太「……そうか?」
星羅「うん。なんか、初めて会った時と雰囲気ちがう」
瑛太「そうかな……」
頭をかく。
星羅「あっ、それ、久しぶりに見た」
くすっと、笑う。
「……」
その顔。
その笑い方。
最初に見たときと、変わってない。
「……なあ」
ぽつり。
星羅が、こっちを見る。
「ん?」
「……たぶんな」
少しだけ、息を吐く。
「俺」
視線を外さずに。
「星羅が笑ってるとこ、見て――」
一瞬。
でも、止めない。
「好きになったんやと思う」
静かに、落ちる。
「……」
星羅は、何も言わない。
でも。
少しだけ、目がやわらぐ。
「……でな」
続ける。
「さっき、改めて思ったわ」
ほんの少しだけ、笑う。
「……今もやわ」
短く。
でも、逃げない。
「まだ、好きになってる途中や」
「……」
星羅が、少しだけ笑う。
その笑顔。
さっきより、近い。
「……じゃあ」
小さく。
「これから、もっと好きになるね」
いたずらっぽく。
でも、まっすぐ。
「……望むとこや」
瑛太も、笑う。
今度は、ちゃんと笑顔
「……行こか」
「うん」
また、並んで歩き出す。
さっきと同じ道。
同じ距離。
でも――
もう、同じじゃない。
二人の関係だけが、
変わっていた。




