第53話:まだ、言えない
廊下。
さっきまでの拍手が、少しずつ遠くなる。
スタッフの声。 誰かの笑い声。 機材の音。
現実に戻っていく音の中で――
「……」
二人は、並んで歩いていた。
何も言わない。
でも。
気まずくは、ない。
ただ――
少しだけ、静かだった。
「……」
足音だけが、揃う。
「……なんか」
瑛太が、ぽつり。
止まらない。
「……前と同じ感じでおられへんかもしれん」
小さい声。
でも、はっきり。
「……え?」
星羅が、少しだけ反応する。
「いや、その……」
瑛太は、少しだけ視線を逸らす。
「変な意味ちゃうねんで」
言葉を探す。
「むしろ……」
少しだけ、息を吐く。
「楽しいし」
「安心するし」
「……その分、なんか」
うまく言えない。
でも。
止めない。
「……戻られへん気ぃするわ」
沈黙。
「……」
星羅は、何も言わない。
「……ごめん」
瑛太が、小さく言う。
「なんか、変なこと言うて」
「……ううん」
星羅は、ゆっくり首を振る。
一歩、近づく。
ほんの少しだけ。
「変じゃないよ」
やさしい声。
「……私も」
小さく。
でも、ちゃんと。
「たぶんちょっと、同じだから」
その言葉が、静かに落ちる。
「……」
瑛太は、何も言えない。
ただ――
そこに立ってる。
少しだけ近い距離で。
同じ空気を吸いながら。
「……行こか」
瑛太が言う。
「うん」
星羅が頷く。
並んで、また歩き出す。
さっきと同じように。
でも――
少しだけ、違うまま。




