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第52話『同じリズムで』

スタジオ。

ライトが、少しだけ眩しい。

客席のざわめきが、ゆっくりと波みたいに広がっている。

袖。

「……」

瑛太は、軽く息を吐いた。

横に、気配。

「……瑛太」

星羅の声。

少しだけ、近い。

「ん?」

振り向く。

目が合う。

ほんの一瞬。

それだけで、分かる。

「……いけるか」

小さく聞く。

星羅は、少しだけ笑った。

「うん」

それだけ。

でも、十分だった。

「ねこごはん、スタンバイお願いしまーす!」

スタッフの声。

「……行くで」

瑛太が、一歩前に出る。

その横に、並ぶ。

自然に。

「うん」

呼吸が、合う。

それだけで、もう崩れない。

「どうぞー!」

背中を押される。

光の中へ。

「どうもー!」

声が、重なる。

客席から、ぱらぱらと拍手。

「ねこごはんです、お願いしますー!」

軽く一礼。

顔を上げる。

いつもの景色。

でも――

今日は、少し違う。

(……近いな)

横。

星羅がいる。

距離じゃない。

“感覚”が、近い。

「いや〜、最近あったかくなってきましたねぇ」

瑛太が切り出す。

「そうだね」

星羅が受ける。

「春やで、春」

「うん」

一拍もズレない。

「春といえば、やっぱりあれやろ?」

「何?」

「食欲の春や」

「それ年中でしょ」

即ツッコミ。

客席、くすっと笑う。

(……ええやん)

自然に、流れる。

「いや、ちゃうねん」

「春は特別やねん」

「何が違うの?」

「なんか……こう……」

少しだけ、間。

星羅を見る。

目が合う。

「一緒に食べたくなるやん」

一瞬。

空気が、ほんの少しだけ変わる。

でも。

星羅は、止まらない。

「誰と?」

すぐに乗る。

「そら――」

言いかけて、

一瞬だけ、息を吸う。

(……ええか)

そのまま、出す。

「相方とや」

客席、笑い。

星羅も、少しだけ笑う。

「なんでよ」

「いや、なんかええやん」

「コンビ愛みたいな?」

「そうそう、それそれ」

テンポが、戻る。

(……いける)

さっきの一瞬。

崩れそうで、崩れなかった。

それどころか――

少し、深くなった。

「でもさ」

星羅が、少しだけ前に出る。

「相方とごはんって、ちょっと気まずくない?」

「なんでやねん!」

ツッコミ。

客席、笑う。

「だってさ」

「沈黙とかあったらどうするの?」

「いや、あるかそんなもん」

「あるよ」

「ないって」

「あるって」

被せる。

ズレる。

でも――

すぐ戻る。

(……全部、分かる)

間も、呼吸も。

どこで拾うかも。

全部。

「じゃあ、やってみよか」

瑛太が振る。

「え?」

「相方とごはん、シミュレーションや」

「なんでよ」

「ええから」

軽く前に出る。

「いらっしゃいませ〜」

店員の真似。

客席、くすっと笑う。

「二名様ですね〜」

「はい」

星羅、乗る。

「お席こちらで〜」

「ありがとうございます」

自然に座る動き。

「……」

わざと沈黙。

客席、くすくす。

「ほら、気まずい」

星羅、小声で。

「ならへんわ!」

即ツッコミ。

笑いが一段上がる。

「なんか喋れや!」

「何喋るの?」

「なんでもええやろ!」

「……今日のロケどうだった?」

一瞬。

でも。

瑛太は、迷わない。

「……なんとかなったわ」

そのまま、返す。

ほんの少しだけ、本音。

星羅、ふっと笑う。

「そっか」

優しいトーン。

そのまま。

「よかった」

客席、少し静かになる。

でも。

すぐに――

瑛太「なんで急にええ空気にすんねん!」

ツッコミ。

笑い、戻る。

(……完璧や)

流れが、生きてる。

さっきの時間も、

さっきの距離も、

全部、ネタに乗ってる。

「ほらな、気まずくないやろ」

「……ちょっとだけ」

「あるんかい!」

ドン、とツッコミ。

拍手。

笑い。

「どうもありがとうございましたー!」

深く、お辞儀。

顔を上げる。

拍手が、広がる。

横。

星羅がいる。

同じタイミングで、顔を上げる。

目が合う。

「……」

言葉はない。

でも。

ちゃんと、分かる。

――今、揃ってた。

袖に戻る。

ライトの外。

「……」

息を吐く。

「……なあ」

瑛太が、ぽつり。

「ん?」

星羅が見る。

「今日のやつ」

少しだけ笑う。

「ええ感じやったな」

星羅も、少しだけ笑った。

「うん」

短く。

でも、しっかり。

「……なんか」

言いかけて、止まる。

でも。

今は、それでいい。

「……また、やろな」

「うん」

並んで、歩き出す。

今度は――

何も考えずに。

自然に。

隣にいた。



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