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第47話:熱の中で

熱が、まだ残っている。

頭の奥が、ぼんやりと重い。

天井を見ているのか、夢を見ているのか――

よく、分からない。

ただ。

身体が、少しだけ楽だった。

さっきよりも。

少しだけ。

「……ん……」

目を閉じたまま、小さく息を吐く。

静か。

部屋の中は、ひどく静かで。

その中に、かすかに残っているものがある。

――体温。

誰かの。

近くにいた、気配。

「……」

ゆっくりと、思い出そうとする。

でも、はっきりとは掴めない。

ただ――

断片だけが、浮かんでくる。

ドアの音。

名前を呼ぶ声。

近づいてくる足音。

それから。

ふわっと、身体が浮いた感覚。

「……あ……」

少しだけ、眉が動く。

あれは。

夢じゃない。

ちゃんと、覚えてる。

抱き上げられた。

その時の腕の強さ。

触れた、胸のあたり。

熱よりも、少し低い体温。

「……」

息が、少しだけ浅くなる。

思い出そうとすると、そこだけ鮮明になる。

他は曖昧なのに。

そこだけ。

やけに、はっきりしてる。

「……なんで……」

小さく、こぼれる。

答えは、出てるはずなのに。

言葉にするのが、少しだけ難しい。

だって――

考えなくても、分かってるから。

「……来てくれた」

ぽつり。

その事実だけが、静かに残る。

理由なんて、いらないみたいに。

当たり前みたいに。

そこに、ある。

「……」

まぶたの裏。

さっきの景色が、ぼんやり浮かぶ。

覗き込んでくる顔。

少しだけ、困ったような声。

それから――

額に触れた、手。

「……あったかい……」

自分の熱じゃない。

別の、温度。

それが、少しだけ心地よくて。

「……なんでだろ……」

ゆっくりと、息を吐く。

胸の奥が、じんわりする。

痛いわけじゃない。

苦しいわけでもない。

でも。

なんか、変。

「……おかしいな……」

小さく、笑う。

熱のせいかもしれない。

そう思えば、楽なのに。

「……違うな」

ぽつり。

否定するみたいに。

少しだけ、首を振る。

熱のせいじゃない。

たぶん。

きっと。

「……」

思い出す。

さっきの言葉。

――“なんか、おかしい”

あれ。

自分も、同じだと思った。

理由は、分からないけど。

でも。

同じだって、分かった。

それだけで――

少しだけ、安心した。

「……」

布団の中で、指先が少しだけ動く。

何かを探すみたいに。

でも、掴むものはない。

代わりに残ってるのは――

さっきの感触。

あの距離。

あの声。

「……瑛太」

小さく、名前を呼ぶ。

返事は、ない。

分かってる。

もう、ここにはいない。

それでも。

その名前を口にしただけで。

少しだけ、胸の奥が落ち着く。

「……ふふ」

ほんの少しだけ、笑う。

「……なんだろう」

うまく言えない。

でも。

一つだけ、分かることがある。

「……このままが、いいな」

ぽつり。

それは願いなのか、

それとも、ただの気持ちなのか。

自分でも、よく分からない。

でも。

確かに、そこにあった。

ゆっくりと、目を閉じる。

呼吸が、少しずつ落ち着いていく。

意識が、また遠のいていく。

その中で――

最後に、浮かんだのは。

「……なんか……いいな……」

小さな、声。

それは、

まだ名前のない気持ちだった。

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