第41話『素顔』
夜。
川辺。
街灯の光が、水面に揺れている。
星羅は、先に来ていた。
少しだけ、落ち着かない。
スマホを見る。
既読。
顔を上げる。
遠くから、瑛太が歩いてくるのが見えた。
「……ごめん、待った?」
「ううん、今来たとこ」
自然に並ぶ。
少しだけ歩き出す。
会話は、ぎこちない。
星羅は、横を見る。
瑛太は、前を見たまま。
やっぱり、今日ずっと変。
「……ねえ」
「ん?」
「なんかあった?」
少し間。
瑛太は、答えない。
星羅は、立ち止まった。
「私もね」
瑛太が振り向く。
「今日一日なんか、変だった」
少しだけ笑う。
「瑛太が気になって…」
風が吹く。
川の音が、静かに流れる。
瑛太は、視線を少し落とした。
「……俺」
言葉を探す。
「なんか、よう分からんけど」
「モヤモヤしてて」
星羅は、何も言わずに聞く。
「一ノ瀬さんと、星羅が話してる時から」
少し間。
「なんか……楽しそうで」
言いながら、苦笑い。
「見たことない顔してた」
星羅は、少しだけ目を瞬かせる。
「……俺」
「たぶん」
「俺の知らん星羅を知ってるあの人に」
「……妬いてたんやと思う」
一瞬の沈黙。
それから。
「……なーんだ」
星羅が、ふっと笑った。
「あはは」
瑛太は、少しだけ拍子抜けする。
「確かに、笑ってたよ」
「でも、あれ営業スマイル」
少し肩をすくめる。
「ていうかさ」
星羅は、まっすぐ瑛太を見る。
「なんで私が、瑛太に営業スマイルしなきゃいけないのよ」
瑛太は、言葉に詰まる。
星羅は、そのまま続けた。
「出会った時から」
「あなたには、素顔の私だよ」
にっこり笑う。
その笑顔は、
いつもの――瑛太が知っている、星羅の笑顔だった。
風が吹く。
星羅の髪が、ふわっと揺れる。
瑛太は、少しだけ目を見開いた。
「俺だけ…」
その、次の瞬間。
「……だから」
星羅は、ほんの少しだけ視線を逸らす。
「勘違いしても、いいよ」
一瞬の沈黙。
瑛太「……は?」
「いや、それって……どういう意味やねん……」
「いや、勘違いって何や……え?」
星羅「えっ?」
きょとんとした顔で振り返る。
「何が?」
「勘違いしてたから、違うよって言っただけだし」
さらっと前を向く。
「帰ろう、瑛太」
瑛太「…………えっ?」
一拍。
「ちょ、ちょっと待てや!」
夜の川沿いに、少しだけ慌てた声が響いた。




