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第39話『なんで、イライラするんやろ』
帰り道。
一人で歩く。
街はまだ少し明るくて、仕事帰りの人たちがすれ違っていく。
誰も、自分のことなんて見てない。
なのに。
なんか、落ち着かへん。
さっきの応接室の空気が、頭から離れへん。
あの男――
一ノ瀬司。
にこにこしてる。
感じもいい。
ちゃんとしてる。
「……完璧やん」
ぽつりと呟く。
「……なんやねん」
なんか、腹立つ。
頭を振る。
「別に、何もされてへんやろ」
自分に言い聞かせる。
それでも、消えない。
今度は、別の顔が浮かぶ。
星羅。
司と話してた時の星羅。
少しだけ、よそ行きの笑い方。
「……なんやねん、あれ」
いつもの笑い方と違う。
自分に向ける笑い方じゃない。
胸の奥が、ざわつく。
足が、少しだけ緩む。
「……いや」
言いかけて、止まる。
「関係ないやろ、俺には」
そう言いながらも。
引っかかる。
消えへん。
信号が赤に変わる。
ぼんやり見ているうちに、青に変わって。
それでも、少しだけ動けなかった。
司の言葉が、ふとよぎる。
――前は、もっと無理して笑ってたのに。
「……知ってんねや」
ぽつり。
自分の知らない星羅を、あいつは知ってる。
「……なんやそれ」
足が止まる。
悔しい。
理由は、わからん。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
「……俺……どないしたんやろ……」




