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第38話『見知らぬ男』

「失礼します」


瑛太がドアを開けると

応接室のソファには、男が一人座っていた。


年は二十代後半くらい。

整った顔立ち。

柔らかそう

な茶色い髪。

高そうなジャケットをラフに羽織っていて、雑誌からそのまま出てきたみたいな男だった。


男は、入ってきた星羅を見た瞬間――目を細めた。


「……久しぶり」


その声に。


星羅の表情が、ぴたりと止まる。


「……司さん」


瑛太は、隣を見た。


星羅が、少しだけ強張っている。


島原マネージャーが、にこにこと二人を見た。


「前に共演したよね」


「……はい」


星羅が、小さく頷く。


「私が女優してた頃、一緒のドラマに出てて……」


その言葉に、瑛太は少しだけ目を見開いた。


女優してた頃。


自分の知らない星羅。


代わりに男――一ノ瀬司が、ゆっくり立ち上がった。


差し出された手。


「一ノ瀬司です。よろしく」


瑛太も慌てて頭を下げる。


「どうも。三谷瑛太です」


握手をする。


……なんやろ。


にこにこしてる。 感じもいい。 むしろ、めちゃくちゃ感じがいい。


なのに。


なんか、苦手や。


「司さん、今すごい人気なんですよ」


島原が、どこか誇らしげに言う。


「今度始まる新番組のメインMCも決まってるし」


「あー、あれね」


司は照れたように笑う。


「街ブラの番組。まだ内緒だけど」


「えっ」


星羅が顔を上げる。


島原は、にやりと笑った。


「で、その番組に。あんたら二人も出ることになったのよ」


「……え?」


瑛太と星羅の声が揃う。


「最初は単発やけど、評判良かったらレギュラー。司君がメインで、若手芸人枠が二人」


「マジですか!?」


瑛太が思わず前に出る。


テレビ。 しかも街ブラ。 しかも、あの一ノ瀬司と。


島原は満足そうに頷いた。


「マジ。だから今日は、その顔合わせってわけ」


「よろしくね」


司は、まっすぐ星羅を見る。


「久しぶりだね。元気そうでよかった」


「……司さんも」


星羅は笑う。


でも、その笑い方は。


瑛太が知っている、星羅の笑い方じゃなかった。


気を遣ってるみたいな。


昔に戻ったみたいな。


そんな笑い方。


「星羅ちゃん、本当に変わったね」


司は懐かしそうに言う。


「前は、もっと無理して笑ってたのに」


瑛太の胸の奥が、ざわつく。


その言葉を。


自分は知らない。


知らない星羅を、この人は知ってる。


島原は、そんな空気をふわっと流すように手を叩いた。


「はいはい、積もる話はそのへんにして」


島原マネージャーは、資料を机に置く。


「今日は番組の顔合わせ。収録は来週やから、二人ともよろしくね」


「はい」


瑛太は頷く。


けれど、頭の中はそれどころじゃなかった。


女優してた頃の星羅。


一ノ瀬司と笑っていた星羅。


自分の知らない星羅。


帰り道。


隣を歩く星羅は、いつも通りだった。


「司さん、変わってなかったね」


ぽつり、と星羅が言う。


「……そうなんや」


「うん。昔から、ああいう人」


少しだけ、懐かしそうに笑う。


その顔を見て。


瑛太は、胸の奥がまた少しだけ痛くなった。


「……俺」


「え?」


「いや」


言えなかった。


俺、星羅のこと。

何も知らんのかもしれん。

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